辻井伸行さんとワルシャワのピアノリサイタル 

季節の変わり目なのでしょう、今週は雨がちの天気が続き、日中でも半袖だと寒いぐらいに気温が下がりました。明日から天気がよくなって気温も上がるようですが、確実に夏から秋へと移り変わろうとしています。

アルメニアに戻ってから1週間が経ち、普段の生活に完全に戻りました。息子たちも元気に学校に通っています。アルメニアの中学生にあたる5年生になったアレンは、新しく増えた自然科学の授業に興味津々です。3年生になったレオは、眠くて不機嫌な時も、「学校に行きたくない…」と泣いたりしなくなりました。

そして、前々回の記事に書いたように、エレバン国立大学院に入学した妻も、授業に通ってアルメニア文学を学んでいます。アルメニア人でも難解と言われる作家の文章が課題に出されたらしいのですが、「三島由紀夫の翻訳をしたお陰で、それほど難しく感じなかった」と言っていました。苦労して頑張った翻訳の仕事が、まさかこんなところで活きるとは!勉強は楽しいらしいので、頑張ってほしいです。

ちょうど1年前の今日、アルメニア国境でアゼルバイジャン軍との大きな武力衝突が勃発しました。ロシアの仲介により2日間で停戦に至りましたが、市民を含む200人以上の死者が出る激しい戦闘でした。今も散発的に銃撃などがあり、予断を許さない状況が続いています。和平合意に向けた交渉も目立った進展がなく、融和への道は長く遠く厳しいものだと痛感します。

ロシアからの援助物資がアグダム道路を通ってカラバフに届けられたという報道がありました。ラチン回廊の封鎖による食糧や薬品などの必需品不足で、深刻な人道的危機に陥っていたカラバフの状況が改善してほしいと思います。すでに9か月も封鎖が続くラチン回廊も、アゼルバイジャンが条件を提示するなど開通に向けた動きがあるようです。

さて、第24回エレバン国際音楽祭が開催中で、一昨日は盲目の天才ピアニスト、辻井伸行さんのピアノリサイタルが行われたので、妻と鑑賞してきました。先月中旬に妻がリサイタルの情報を見つけて、迷うことなく即チケットを予約しました。

私と妻は、4年前にも辻井さんの演奏を聴く機会がありました。その時も同じ音楽祭でのリサイタルでしたが、あまりに素晴らしい演奏に心から感動しました。そして、コンサート後に舞台裏でお会いする機会までありました。その時のことについては、過去の記事をご覧ください(こちら)

今回のコンサートも、本当に素晴らしかったです。妻と共に美しい音楽に酔いしれる素敵な夜でした。彼の指先から紡ぎ出される音には、体全体に降り注ぐような、心が吸い込まれるような響きがあります。その音になるべく集中したくて、コンサート中はほとんど目を閉じて聴いていました。そうしていると、このままずっと聴いていたくなりました。

どれも素晴らしい演奏でしたが、特にラヴェルの曲は聴き惚れました。辻井さんの繊細で包み込むようなピアノの音は、輪郭が曖昧で、色彩豊かなメロディーを持つ印象派の曲にすごく合っているように感じます。「水の戯れ」の自然で純粋な音色を聴いている時は、一つ一つの音の粒がキラキラと光り輝きながら流れる川のイメージが想起されました。

圧巻の演奏が終わると、今回も満場の拍手喝采とスタンディングオベーションが送られました。感動のあまり涙ぐむ人もいました。さらに、今回も辻井さんは4年前と同じくアンコールで3曲弾いてくれました。最後は私たちが旅行したばかりのポーランドが生んだ大音楽家ショパンの遺作。それを辻井さんの生演奏で聴くことができ、この上なく幸せでした。

とにかく素晴らしいコンサートで、2時間があっという間に感じました。4年前と同じく、終わってすぐは感動の余韻が強く残り、ただただ溜め息が出るだけ…「辻井さんは神様からの贈り物。彼の演奏を超えるものはない」と、妻も大絶賛していました。今回も極上の美しい音楽を聴かせてくれた辻井さんに感謝!またいつかコンサートがあれば、必ず鑑賞したいと思います!

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4年ぶりの辻井さんのピアノリサイタル。今回も美しい音楽を堪能して大満足!感動をありがとうございました!

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会場からは惜しみない拍手と歓声が送られ、辻井さんも嬉しそうでした

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同じコンサートに来ていたルザンさん家族と食事。娘さんのマリアちゃんはもうすぐ留学先の日本に戻ります。日本で頑張ってね!

ここからはポーランド旅行の続きを少しご紹介します。クラクフからワルシャワに戻った翌日は、家族で街中を散歩したり、ユニクロで子供の服を買ったりしました。日本で買うより少し高いけど、アルメニアにユニクロはありませんからね。ちなみにアルメニアにはマクドナルドもないから、ポーランドでは息子たちを2回ほど連れて行きました。

その日にランチで食べたのは、ポーランドのファストフード「ザピエカンカ」。半分に切ったバケットの上にお好みのトッピングをのせて焼いたピザみたいなものです。本来の長さは33cmで、入ったお店はハーフサイズもありました。妻と息子たちはハーフサイズにして、私はオリジナルサイズに挑戦。子供の頃に食べていたピザトーストみたいな懐かしい味がして美味しい!でも、やっぱり大きすぎて、少し残してしまいました。

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旧ソ連の衛星国だったから、ワルシャワの街中でこんな共産主義的なデザインを見かけました

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オリジナルサイズのザピエカンカ。美味しいけど、大きすぎて食べ切れませんでした…

そして夜は、楽しみにしていたピアノリサイタルに妻と行ってきました。ちょうど「ショパンと彼のヨーロッパ国際音楽祭」が開催されていたので、聖美さんがチケットを取ってくれたのです。演奏者はチェコのルーカス・ヴォンドラチェク。エリザベート国際コンクールで優勝した実力派ピアニストです。

会場はショパン国際ピアノコンクールも行われるワルシャワ国立フィルハーモニー。さぞ立派なコンサートホールだろうと思っていたら、よくある政府系建物みたいな地味な外観でビックリ!もし場所を知らなかったら、それと分からず通り過ぎてしまいそうなほどで、エレバンのコンサートホールの方がずっと立派です。内部も意外なほど簡素で、演奏会場の一階は段層にもなっていません。

しかし、アルメニアと違って感心したのは聴衆のマナーの良さ。ワジェンキ公園の無料コンサートもそうでしたが、ほぼ時間通りに始まるし、演奏中は話し声など聞こえません。アルメニアだと、いつも大体20〜30分は開始が遅れるし、始まってからも人が入ってくるし、コンサート中は話し声や携帯の音がするし、楽章の間なのに拍手する人も多いです。

ワルシャワのコンサートでは、誰もがちゃんと演奏が終わるまで静寂を守り、音の余韻が消えてから拍手をします。音が終わった後の間も音楽の一部という考えが浸透しているからでしょう。アルメニアだと、演奏が終わるや否や拍手するから、せっかくの余韻を味わうことができません。「コンサートで音の余韻を味わえたのは初めてかも…」と、妻が言っていました。

さて、肝心のルーカス・ヴォンドラチェクの演奏ですが、とても素晴らしかったです。特にシューマンの「クライスレリアーナ」は圧巻の演奏でした。彼の音色やスタイルは、曲によって向き不向きががすごく分かれそうですが、シューマンの曲にはとても合っているように感じました。もちろん弾き終わった後の余韻も味わうことができて、大満足のコンサートでした。ショパンの故郷ワルシャワで、美しい音楽を満喫する機会を作ってくれた聖美さんに感謝です!

コンサートが終わって、歩いて帰る途中、オープンテラスで楽しそうに食べたり飲んだりしている人をたくさん見かけました。アルメニアと同じく、日が沈むと涼しくて過ごしやすいですからね。昔ポーランドを訪問した時は、まだ経済的に豊かではなく、あまり治安がよくなかったですが、今は安心して夜も出歩けます。というか、自分たちも外でビールを飲みたくなる雰囲気です。

翌日はバルト海の港町グダンスクに向かいました。そのグダンスクは、今回の旅のハイライトとも言える素晴らしい街で、私と妻にとってお気に入りの場所になりました。その時の思い出は、また次回の記事でご紹介したいと思います。

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コンサートに向かう途中、夕暮れ時のワルシャワの街

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ワルシャワ国立フィルハーモニーのコンサート会場。意外に簡素で驚きました。

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演奏を終えたルーカス・ヴォンドラチェク。会場からは盛大な拍手が送られました。

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帰宅途中の歩道橋の壁は落書きでびっしり!アルメニアではあまり見かけないけど、ポーランドは酷かった…

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