アルメニアでクーデター騒ぎ?! 

日本でもニュースになったようですが、昨日はアルメニア国内が混乱しました。これほど緊迫した状況になったのは久しぶりで、ネット上でも様々な情報が錯綜していました。しかし、実際には、報道されているようなクーデター騒ぎではありませんでした。その事の経緯を以下にまとめます。

きっかけは、先日パシニャン首相が、サルグシャン前大統領の「なぜロシアから購入したイスカンデル弾道ミサイルを戦争中に有効に使わなかったのか?」という問いに対して、「欠陥品で10%しか爆発しなかった」と答えたこと。この発言を軍の副参謀長官が嘲笑したため、パシニャン首相は同長官の解任を決定しました。ロシアは、パシニャン首相のイスカンデルに関する発言について、「誤った情報に基づいている」と抗議しました。

しかし、この解任決定を不服とする軍参謀本部が、「まともな政治決定を行う能力がない!」として、パシニャン政権の退陣を要求する声明を出しました。これに対して、パシニャン首相は参謀長官の解任も決定し、「軍によるクーデターの試みだ!」と訴え、支持者らに抗議集会に参加するよう呼びかけました。ちなみに、二人の軍長官は、パシニャン首相の解任決定に大統領が署名しない限りは解任されません。

この一連の出来事に対し、戦争後からパシニャン首相の辞任を求めて抗議活動を行っている野党グループも集会を開くことを発表し、支持者らに参加を呼びかけました。そのため、共和国広場ではパシニャン首相が主導する集会が、オペラ前の自由広場では野党グループが主導する集会が同時に実施されることになりました。

集会でパシニャン首相は、「私にとって、解任した軍のトップらも敵ではなく同胞だ。しかし、軍が政治に関与することは許されない。政権交代は、あくまで主権者である国民の意思によって行われなければならない」と訴えました。野党グループは、「敗戦の責任はパシニャン首相にあり、危機的な状況にある母国の舵取りを任せることはできない。パシニャン首相はすぐに辞任すべきだ」と訴えました。

対立する勢力が同時に大規模な集会を開いたため、衝突や暴動に発展するかもしれないと危惧されましたが、特に大きな混乱はありませんでした。ただ、集会後も野党グループの支持者の一部が、国会議事堂前にバリケードやテントを設置して抗議活動を続けているようです。パシニャン首相は、野党グループとの対話を呼びかけています。

報道によると、パシニャン首相の集会には約2万人、野党グループの集会には約1万人ほどの市民が参加したそうで、依然としてパシニャン首相に対する支持の方が高いようです。というより、革命前の政権に対する嫌悪感がかなり根強いと言った方がいいかもしれません。野党グループには、前政権が大きく関与していますからね。

上記が事の経緯ですが、軍参謀本部は、現政権の退陣を要求しただけで権力奪取など主張していないので、クーデターでは全くありません。そのため、私は大事にはならないだろうと思いつつ、冷静に情勢を見守っていました。そして、夕方には、いつも通り子供たちをレゴ教室に連れて行きました。交通規制による渋滞が心配でしたが、逆に道は空いていて、とてもスムーズに到着できました。街中も至って平穏でしたね。

とはいえ、軍内部に不満分子はいるし、野党グループも抗議デモを継続しているため、いまだ国内情勢は不安定ではありますが、国防大臣は現政権に対して批判的な言動は一切しておらず、国防省も「政治には関与しない」と公式に表明したことから、クーデターなどが起こる可能性は低いと言えます。

それどころか、今回の騒動も、結果的にはパシニャン首相に有利に働いたような気がします。パシニャン首相は、今回の出来事をクーデター疑惑と騒いで危機感を煽り、国民の自身への支持を一層強化しようとしたのではないか…と個人的には思っています。政治は駆け引きですから、けっこうあり得る推測かもしれません。

しかし、いつまで国内の対立や混乱は続くのでしょうか…この背景には、「敗戦そして領土を失うという結果は、アルメニアにとって受け入れがたいものだ」という考えがあります。アルメニア人にしたらそう思うのは仕方ありませんが、私はその考えには同意できません。戦争中、特に戦争後から、私がずっと抱き続けている違和感の原因はここにあります。

なぜなら、戦争において完全な善や悪など存在せず、領土問題は大きな妥協をすることでしか解決できないからです。それを長年の交渉で実現できずに、昨年の戦争と敗戦という結果を招いたのは、アルメニア側の頑な姿勢にも原因はあったと思います。まして戦争前の状況も、根深い対立が続き、毎週のように若い兵士が命を落とすなど、平和からは程遠いものでした。

また、この国内の対立や混乱は、最も重要なカラバフのアルメニア人の存在が無視されているようにも感じます。というのも、従軍していた人や戦争後にカラバフを訪問した人の話を聞くと、カラバフの人々の緒戦や現状に対する考えは、アルメニア本土のそれとは異なっている部分があるのです。本土のアルメニア人は、自分が信じる正義を振りかざす前に、カラバフの実際の状況やカラバフ住民の意見にもっと関心を寄せるべきではないでしょうか。そして、長期的な視点で、国の安定と発展のためにはどうしたらよいかを考えるべきではないでしょうか。

とにかく、昨日の出来事はクーデター騒ぎなどではないので、どうかご安心ください。今日は目立った混乱もなく、いつもと変わらない平穏な日常に戻っています。停戦からまだ半年も経っていないので、不安定な要素があるのは仕方なく、今後もいろいろと起こるかもしれません。でも、それらを乗り越えて、きっと平和な社会が実現すると信じています。それだけが、私にとって受け入れられる結果です。

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昨日もいつも通りレゴ教室に子供たちを連れて行きました。他の子供たちもちゃんと来ていました。

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レゴ教室の近くの公園。集会が行われている場所以外は至って平穏でした。クーデターなど起こっていないので、どうかご心配なく!

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