停戦合意をめぐる意見や憶測 

先週から気温が下がり、朝晩は0度以下になることもあるので、セントラルヒーティングを点けました。来月から光熱費が上がりますね…とはいえ、まだコロナが問題になっている今、風邪でも引いたら面倒です。ちなみに、今週から学校や幼稚園が再開し、1か月ぶりに子供たちが通ってくれてホッとしています。

その新型コロナのワクチンの開発が進んでいるというニュースがありました。ファイザーに続いて、米モデルナ社が開発中のワクチンが約95%という高い有効性を示したそうです。ちなみに、このモデルナ社の共同創業者の一人は、ヌバル・アフェヤンというアルメニア人。私個人はワクチンそのものに対して懐疑的ですが、普通の生活に戻るために多くの人が待ち望んでいるのは確かです。

さて、衝撃的な停戦合意から10日が経ちました。カラバフ領内にはロシアの平和維持軍が展開し、アルメニア本土とステパナケルトを繋ぐ南ルートの安全も保証されたため、戦争から逃れてきた市民が徐々にステパナケルトに戻っているそうです。アゼルバイジャン軍の攻撃で破壊されたインフラの復旧も進んでおり、ネットはすでに利用可能で、公共料金も1年間は無料になるとのこと。少しでも住民に戻ってきてもらうための施策でしょう。

しかし、アゼルバイジャンに返還される領土の住民たちは、住み慣れた家を燃やしてアルメニア本土へと移動しています。彼らの住居や仕事、また生活の保証はどうなるのか…国にとって喫緊の課題ですが、約140ドルの一時金の支給が決定されたぐらいで手厚い保護は期待できないかもしれません。また、アルメニア側に残されるカラバフ領土の法的地位は未解決のままです。そして、手放されるアルメニアの歴史文化遺産の運命も大きな懸念となっています。

今回の停戦合意の仲介をしたプーチン大統領は、カラバフ領土の法的地位について、「将来アルメニアとアゼルバイジャンの関係が正常化したら、解決に向けて議論されるだろう」と述べました。また、歴史文化遺産についても、アゼルバイジャン側に保全に努めるよう求めたそうです。ちゃんと保存されるかもしれませんが、「アルバニア人が作った」などと歴史解釈は歪曲されまくるでしょうね…

カラバフ領内では停戦違反行為も起きておらず、復興に向けたプロセスが進んでいますが、エレバンでは、野党が主導するデモが続き、外務大臣や副大臣が辞職するなど政府内で混乱も起きています。とはいえ、街中は至って平穏です。そういえば、先日のギャラップ調査によると、賛成意見は43.8%、反対意見は40.9%だったそうです(回答なしが15.3%)。賛成の方が少し上回っているのは意外でしたが、それでも半数近くの国民は不満に思っているという結果。

やはり事実上の降伏と言える屈辱的な内容だったことが大きく、大統領や議会、国民に説明もなく、そんな合意文書に署名したパシニャン首相に対する風当たりは厳しいです。最初から戦争に勝つつもりはなく、ほとんどの領土を返すつもりだったのではないか…という憶測も出ています。また、戦争中にロシアは積極的に支援してくれなかった原因は、パシニャン政権が対露関係を悪化させたからだという批判も出ています。

そして、なぜシューシまで返還するのか?!という怒りの声も多いです。シューシが実際に陥落していたかについては、政府と現地で戦っていた兵士とで意見が異なっていることも、この疑惑に拍車をかけています。アルメニア人にとって、シューシはカラバフの文化的中心なので、決して明け渡したくない街でした。アゼルバイジャンにとっても重要な場所だったため、奪還に全力を上げていました。シューシの戦闘で300人以上のアルメニア人兵士が命を落としたという情報もあり、激しい戦闘があったことは事実です。

前回の記事に書いたように、勝者と敗者、得る側と失う側が完全に入れ替わる過酷な結果となったので、そう簡単に納得できないのは当然です。疑惑や怒りを煽る情報はネットに溢れていますし、人間は感情が先立つと、自分にとって都合のいい意見ばかりを妄信し、気に入らない意見は排除するようになります。真実は何かよりも、自分の思うことや考えることがいかに正しいかに執着するようになります。

同じようなことは戦争中も起きていました。今は、戦争に負けた原因の追求や指導部への批判などネガティブな情報ばかりが目立ちますが、戦争中は、「我々は勝つ!」というスローガンの下、政府や軍の発表するポジティブな情報を信じて支持する空気に満ちていました。それが国民として当然の義務であるかのように…そういう私も、アルメニア側の見解や情報を当ブログで伝えていたから偉そうなことは言えないんですが、大本営発表である可能性は常に頭にありました。

「戦争は勝敗が全て」という残酷な現実について何度も言及していますが、その勝ち負けは単純に決まるわけではありません。強大な軍事力を持っているかどうかは最も重要ですが、他に外交力や経済力、周辺国の思惑、また国内の社会状況や国際情勢の動向など様々な要素で変わってきます。今回の戦争の結果も、それら全てが複雑に絡み合って導き出されたものかもしれません。

だから、「もしこうだったら結果は違った」と簡単に想定できるものではありません。もちろん反省は必要ですが、納得できない結果だからと、過去についていろいろ想像するだけでなく、反対に、もしあのまま戦争を続けいたらどうなっていただろう…と想像することも必要ではないでしょうか。とはいえ、当事者のアルメニア人にとって、今はまだ落ち着いて受け止められない状況なのは確かです。その気持ちを理解しつつ、私はできる限り冷静に情勢を見守り続けたいと思います。

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13世紀に建てられたガンザサール修道院。荘厳で美しい教会です。これはアルメニアに残る領土内にあります。

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精微な彫刻が施された壁や扉。見応えのある教会でした。

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窓から美しく光が差し込み、内部には神秘的な雰囲気が満ちていました。

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ガンザサール修道院からの眺め。カラバフの自然は息を飲むほど素晴らしかったです。

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ガンザサール修道院の建つ山の麓にあるライオンの岩。観光用に造られたもので、ライオンの唸り声も流されています。

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ライオンの岩の真向かいにある渓流にも、観光用に大きな船が置かれています。ここもアルメニアに残る領土内です。

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