停戦合意後のアルメニアの状況 

昨日11月11日は、中国では「独身の日」で、その日にネット通販各社が大規模なセールを行うのが恒例になっています。そして、最大手アリババの取引額が過去最高の7.9兆円に達したとのこと。これって東京都の一般会計予算を超える額…すごすぎる。今年はセール期間が延長されたことも影響していますが、中国経済はコロナ禍の中で一人勝ちと言えるのかもしれません。

さて、完全な停戦合意が締結されてから三日が経ちました。事実上のアルメニアの降伏という結果で終わり、また屈辱的な合意内容であったため、多くのアルメニア国民は深い落胆と悲しみに中にいます。妻もまだ立ち直れていないみたいで、見ていて辛いです。

シューシを含むカラバフ領土の南部と周辺地域を返還し、アゼルバイジャン本土と飛地ナヒチェバンを繋ぐ道路が国内に建設されるという条件は受け入れがたいに決まっています。怒りで暴徒化した市民らが、政府庁舎や首相官邸に乱入して、国会議長に暴行を加える事件まで起こりました。これは明らかに犯罪行為なので、首謀者らは逮捕されました。

アルメニアとカラバフの政府は、要所のシューシが陥落したことで降伏せざるを得なかったと説明していますが、現地で戦っていた兵士らはそれを否定しています。そのため、政府首脳らが国民を裏切ったとか、事前に計画があって領土を売ったなどの憶測が飛んでおり、こんな屈辱的な停戦をするべきではなかったと考える人も多いです。

実は、私も当時の状況については疑問が残っています。シューシの前線を取材していたロシア人ジャーナリストの投稿をずっとリアルタイムで読んでいましたが、合意締結の数時間前もまだ戦闘が続いていて、シューシが完全にアゼルバイジャン軍の手に落ちたようには見えませんでした。ただ、シューシ市内でも戦闘が起こっていたので(手引きした裏切り者がいるという話もあります)、いずれにしても陥落は時間の問題だったかもしれません。

もし実際にシューシが奪われたら、そこから見下ろせる首都ステパナケルトは簡単に攻撃できます。ただでさえアゼルバイジャン軍は最新鋭のドローンを多用するなど軍事力で勝っているので、そうなると壊滅的な被害が出て、下手すればカラバフ領土全てを失ってしまいます。この最悪のシナリオを回避するためには、大幅に譲歩してでも停戦を受け入れざるを得ません。もし噂になっている裏切りや密約などなくても、戦局はアルメニアに不利だったのではないでしょうか…

とはいえ、簡単に納得できる結果では決してないし、上記のような憶測も飛んでいるため、現政権への不満や不信感は高まっています。そして、17の野党がパシニャン首相の辞任を求めるデモを起こし、政局が混乱しています。このニュースを聞いた時、「エッ?!アルメニアに17も政党があったっけ?」と驚きました。で、その政党名を見てみると、3つ以外は全く知らない新しい政党でした。知っている3つの野党も、革命で下野した前与党などで、この混乱に乗じて政権を取ろうという魂胆が見え見え…お金を払ってデモ参加者を集めているという話もあります。

だから、多くの国民は彼らのデモなどを冷めた目で見ています。今回の停戦合意には不満だけど、醜い権力争いに協力したくはないということでしょう。この戦争の結果を受けて、強権的な指導者を求める風潮が高まるかもしれない…と少し不安もあったんですが、今のところは大丈夫なようです。政権交代や強いリーダーを求めるのは別にいいんですけど、それでまた腐敗した独裁政権が生まれるのは避けてほしいです。

多くの国民は納得していないし、様々な憶測や噂が飛び交い、現政権への不満も高まっていることは事実です。しかし、上記のようにデモを主導している政治家のことも信用していない上に、まだ戒厳令が継続中で、基本的にデモは禁止されているため、エレバンは至って平穏です。お店は普通に開いていて、多くの人は仕事に通っていますし、コロナの感染拡大で閉鎖されていた学校や幼稚園も来週から再開する予定です。

私の見解ですが、今回のような歴史的な停戦合意は、数日で進められるものでもないし、アルメニアやカラバフの政府首脳らが独自で決定できるものではありません。結局ロシアが、戦局を注視しながら、トルコと駆け引きしつつ調整して当事国双方に飲ませたのだろうと思います。実際に、今回の合意内容は、過去にロシアが紛争解決のために提案したものと類似しているという情報もあります。ロシアにとっては、平和維持軍の展開など、この地域でのプレゼンスをさらに高められるメリットがあります。

アゼルバイジャン側にとっては歓迎できる内容だったでしょうが、実際はもっと過酷な条件をアルメニアに対して突きつけていたかもしれず、ロシアがうまく懐柔したのかもしれません。というのも、合意締結の数時間前に、アルメニアとナヒチェバンとの国境付近で、ロシア軍ヘリコプターが撃墜される事件があったのです。すぐにアゼルバイジャン側が誤射したとロシアに謝罪しましたが、タイミングがあまりにも悪すぎ。その後にロシア側は全く問題にしていないし、これを交渉のカードとして使った可能性はないでしょうか…

ちなみに、平和維持軍にトルコが参加するという噂があったり(ロシアは明確に否定)、アルメニアに残されたカラバフ領土の法的地位や難民の帰還プロセス、またアゼルバイジャンに返還される領土内のアルメニアの文化遺産の処遇など、合意内容についてはまだ曖昧な部分が残っています。それがアルメニア人の不安を煽っており、今後いろいろと明らかになっていくと思いますが、場合によっては国民の不満が爆発して、さらに政局が混迷するかもしれません。

いずれにしても、今回の停戦合意はロシアが全面的に主導した可能性が高く、そうであれば、今更アルメニアの政変で覆るものではなく、まして即座にアゼルバイジャンとの戦争に突入しようなんて愚の骨頂です。すでに多くの犠牲が出たというのに、さらに血と涙が流されるだけ…たとえ再び戦争でいくらか領土を取り返したとしても、アゼルバイジャンが反撃して、すぐまた同じ悲劇が繰り返されます。

とはいえ、アルメニア人にとっては受け入れがたい結果で、冷静でいられないのは当然のことです。戦争は勝敗が全てだと書きましたが、彼らの大きな喪失感と悔しさを思うと辛いです。いや、辛いなんて言葉では言い表せないほどの、外国人の私には到底理解できないほどの苦しみでしょう。しかし、いずれは落ち着きを取り戻して、なぜこうなってしまったのか、今後どうすべきなのか冷静に考えて、将来に向けて歩んでいってほしいと思います。

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アゼルバイジャンに返還される領土内にあるダディ修道院。9〜13世紀に建てられたアルメニア教会ですが、アゼルバイジャンは、「アルバニア人が建設した」と全く史実と異なる説明をしています…

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美しい鐘楼。本当に見応えのある修道院でした。

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内部の壁画が有名で、とても神秘的な雰囲気に満ちていました。

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素晴らしいハチュカル(十字架石)も数多く残されています。

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こういう歴史文化遺産がアゼルバイジャンの手に渡ることにも、アルメニア人は深く失望し、また今後どうなるのか心配しています。破壊されずに、大切に保存されることを願います。

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