アルメニアとアゼルバイジャンが停戦合意
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日本でも報道されたかと思いますが、昨晩、ロシアの仲介により、アルメニアとアゼルバイジャンが停戦に合意しました。その三か国の首脳が署名したので、最終的な停戦合意が締結されたことになります。ついに1か月以上続いた戦争が終結しました。そして、約30年続いた領土紛争にも終止符が打たれる可能性が出てきました。
というのも、停戦条件として、アルメニア側がほとんどの領土をアゼルバイジャンに返還することが盛り込まれているからです。つまり、これは事実上のアルメニアの敗北を意味します。今、多くのアルメニア人が大きな落胆と悲しみの中にいます。妻も相当ショックを受けていて、傍にいる私も辛いです。
アルメニアは、実効支配していたナゴルノ=カラバフ領土周辺の地域、そして今回の戦争で奪われたナゴルノ=カラバフ南部などを返還します。そこには要所だったシューシの街も含まれます。アルメニアに残されるのは、ステパナケルトを含むカラバフの北部など。それら以外の地域は、年内に段階的にアゼルバイジャンに返還される予定です。アルメニア本土とステパナケルトを結ぶラチン回廊の交通は確保されます。
アルメニアに残される地域とラチン回廊には、ロシアの平和維持軍が配備されます。すでに今朝から配備が進められています。また、アゼルバイジャン本土と飛地ナヒチェバンを結ぶ道路が建設されることも停戦条件に含まれています。このルートの移動や輸送の安全をアルメニアは保証し、上記のラチン回廊の移動や輸送の安全をアゼルバイジャンは保証しなければいけません。
上記の内容からも分かるように、アルメニアが大幅な譲歩を迫られた停戦合意となりました。パシニャン首相とナゴルノ=カラバフ大統領は、国民に向けて声明を出し、シューシ陥落など戦局が圧倒的に不利となり、戦闘を続けても状況が悪化して被害が増える一方であるため、苦渋の停戦合意を決断したと説明しました。
実は、昨日の夕方、ナゴルノ=カラバフの大統領補佐官が、「シューシも、ほぼアゼルバイジャン軍の支配下にある。ステパナケルトも危険な状態にある」という投稿をして、アルメニア国内が混乱しました。すぐにシューシにいる兵士たちが、「それは嘘だ!まだ戦闘が続いている」と伝える動画やメッセージなどを投稿したため、実際にどうなっているのか情報が錯綜しました。当時の現地の状況、また政府が停戦合意の決断に至った過程については、今も様々な憶測が飛んでいます。いずれにしても、シューシが主戦場になっている時点でかなり戦局は厳しかったのは確かです。
とはいえ、アルメニアにとって事実上の敗北となり、ほとんどの領土を失うことになるため、合意発表の直後に、それに反対する市民らが政府建物や首相官邸に乱入する事件がありました。国会議長が暴行を受け、病院に緊急搬送される事態にも発展しました。今日も同様の抗議デモが行われています。この屈辱的な決定をしたパシニャン首相らを売国奴と呼び、退陣を求める声も上がっています。
しかし、私はこの最悪の結末、場合によってもっと最悪の状況になる可能性も頭にはありました。悲しいかな、戦争は勝敗が全てです。もちろん戦争を回避して、なるべく交渉によって解決すべきですが、いざ武力による争いが本格的に始まってしまうと、あとは勝敗が全てを決めることになります。母国・日本は、その過酷な現実を徹底的に味わった国です。そういう意味で、今回の政府決定は仕方なかったのかもしれません。もちろん、そう思えるのは私が外国人だからで、当事者のアルメニア人たちにしたら受け入れがたいに決まっています。
虐殺など幾多の苦難の歴史を歩んできた民族です。常に周辺の大国に翻弄され、この領土問題も、元はいえばソ連時代の恣意的な決定に起因しています。今回の戦争でも、多くの血と涙が流されました。にも関わらず、自分たちの歴史や文化が刻まれた大切な土地を失い、多くの人が故郷を追われます。この紛争では双方に同様の悲劇が起こってきた訳ですが、まさに今その渦中にあるアルメニア人にとっては筆舌に尽くしがたい苦しみでしょう…
その苦しみを思うと私も辛いですが、とにかく戦争は終わりました。この1か月以上、多くの犠牲が出て、嫌と言うほど悲しみを見てきたので、少しホッとしている部分もあります。今は大きな歴史の転換点で、これからの道のりも困難を極め、国内がさらに混乱しないとも限りません。どうなっていくのか、今は希望よりも不安の方が大きいですが、この国を愛し、住んでいる者として、今後もアルメニアの情勢を見守っていきたいと思います。そして、当ブログで伝えていきたいと思います。
美しいナゴルノ=カラバフの自然。この停戦で本当の平和が訪れますように…
- [2020/11/10 21:12]
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