シューシの街を巡る戦い
- アルメニア情勢
- | トラックバック(0)
- | コメント(0)
混迷を極めた米大統領選は、選挙人の過半数を獲得したバイデン氏が勝利宣言を行いました。しかし、トランプ陣営はそれを認めず、法廷闘争に力を入れていくと述べています。大手メディアは、この不正疑惑をまともに取り上げようとしませんが、市職員や郵便局員が内部告発したり、投票用紙の集計機の不具合などが発覚して、FBIが捜査を進めているという情報もあります。まだまだ波乱が続きそうですね。
昨日は、映画(ドラマかな?)の撮影のエキストラの仕事がありました。たまに東洋人が必要な時に依頼があって、条件が合えば出演するんです。典型的な東洋人の見た目の上に、アルメニア語ができる日本人なんて貴重ですからね。撮影現場は建設中のビルで、資材を運んだりする外国人労働者の役を演じました。昨日は快晴で、そのビルの上からは美しいアララト山の姿を見ることができました。戦争が1か月以上も続いている中、その雄大な自然の風景に心が癒されました。
さて、そのナゴルノ=カラバフを巡る戦争の状況ですが、前線全域で戦闘が続いています。ステパナケルトには、クラスター爆弾も使った砲撃が行われ、民間人1名が負傷したそうです。これまでにカラバフ・アルメニア兵士1221名が亡くなったとのことです。特に、重要な拠点であるシューシの街近郊では激しい攻防戦が続いています。昨日は、市内部でも小規模の戦闘が発生したとアルメニア国防省は発表しました。厳しい状況ですが、カラバフ軍は防衛に成功しているとのことです。
なのに、昨日アリエフ大統領は、「ついにシューシを奪還した!」と公式に発表しました。そして、シューシの街の要塞やモスクにはためくアゼルバイジャン国旗の写真、またステパナケルトから逃げ出す市民たちの長い車列の映像などがネットで流れました。この発表を聞いたアゼルバイジャン国民は、積年の恨みを晴らした!と大喜びで、もう戦争に勝ったようなお祭り騒ぎだったようです。当然そうなるでしょうね。
しかし、アルメニア国防省は即座に事実無根と否定しました。上記の写真や映像も、異なる建物だったり、他国の映像だったりと捏造であることが判明しています。シューシの街に残っている市民も、「特に何も起こっていない」と話しています。この稚拙なアゼルバイジャンのプロパガンダについては、以前に記事(こちら)で書いたことがありますが、いくらなんでも、こんな重大なことをフライング発表してもいいんでしょうか…
ただ、そこまでする理由は想像できます。というのも、今日は、アゼルバイジャンで「国旗の日」という祝日だそうで、アリエフ政権としては、その日までにシューシ奪還という大きな戦果を挙げて、国威高揚に繋げたかったんだろうと思います。最悪あとでシューシを奪還して、既成事実化してしまえばいいということかもしれません。向こうは厳しく情報統制されているから、国民も政府発表をそれほど疑わないでしょうし、グッドニュースは信じたいというのが人の性ですからね。
こんなことがまかり通っているのに、昨日BBCが行ったアリエフ大統領のインタビューには呆れました。BBCの記者が、同局の取材陣やヒューマン・ライツ・ウォッチが、ステパナケルトなど市街地への無差別攻撃、またクラスター爆弾などの使用を現地で目撃している点について尋ねたところ、アリエフ大統領は、「全てフェイクニュースだ!」と答えたんです。そして、シューシのガザンチェツォツ大聖堂を砲撃したことについても、「誤爆だろう」と答え、記者に「2回続けて同じ場所を誤爆しますか?」と突っ込まれていました。
戦時だから、プロパガンダや誤情報が流されたり、いろいろ情報が錯綜したりは仕方ないと思います。私も、基本的に住んでいるアルメニア側の見解や情報を書いてはいますが、それが全て真実だとは思っていません。アルメニア側だって、公表しないことや歪曲していることなど多々あるでしょう。いわゆる大本営発表というやつですね。そこは承知した上で、私はジャーナリストでもなく、これもあくまで個人のブログですから、自分の書きたいことや伝えたいことを徒然に綴っているのです。
とはいえ、アゼルバイジャンのは度を越しているし、平時の教育やプロパガンダも偏りすぎていて、そこから生まれる激しいアルメニア人嫌悪には恐怖を覚えます。過去には就寝中のアルメニア人を斧で殴り殺した兵士が国の英雄として称えられたり、先日は国内のサッカークラブの広報代表が、「老若男女すべてのアルメニア人を殺さなければならない」とネットに書き込んだりしました。こんな行為や発言が許される国情は明らかにおかしいと思います。
また、数年前に日本語ができるアゼルバイジャン人と会った時も、私がアルメニアに住んでいると聞いた彼は、「エレバン含めてアルメニア領土は全てアゼルバイジャンのものだったんですよ」と言ったので驚きました。気さくでいい人だったし、そういう風に洗脳されているんでしょうけど、カラバフだけじゃなく、アルメニアの国土も全部アゼルバイジャンだったと信じているなんて…だったら、古いアルメニア教会とかは誰が建てたことになるのでしょうか?
とにかく、シューシの街はまだ陥落していません。前線を取材しているロシア人ジャーナリストが、先ほどもリアルタイムで戦闘の映像を流しながら、「まだシューシは陥落していない」と言っていました。しかし、国民に大々的に発表してしまったからには、アゼルバイジャン軍も総攻撃をかけて必死で奪いにくるでしょう。今日に状況が大きく変わる可能性は否定できません。結局、戦争は勝ち負けですからね…ただただ成り行きを見守るしかありませんが、今も双方に多くの犠牲が出ていることは確かです。一刻も早く事態が収束してほしいと思います。
撮影現場のビルから見えたアララト山の雄姿。エレバンは普段と変わらず平穏です。もちろん多くの人は、戦争のことが気になって落ち着かない状況ですが…
昨日は家族で近所の教会に行ってお祈りしてきました。子供たちも自分でロウソクに火をつけて立てました。早く平和が訪れますように…
- [2020/11/09 21:21]
- アルメニア情勢 |
- トラックバック(0) |
- コメント(0)
- この記事のURL |
- TOP ▲
トラックバック
この記事のトラックバックURL
http://armeniajapan.blog54.fc2.com/tb.php/1160-64987946
- | HOME |
コメントの投稿