ナゴルノ=カラバフに関する国連決議 

昨日アルメニアのコロナの新規感染者数が千人を超え、戦争の負傷者の治療で忙しい医療機関を圧迫しかねないという理由から、今日から全ての教育機関が2週間閉鎖されることになりました。その代わり11月上旬の秋休みはなくなる予定ですが、状況次第では、このまま再開されないかもしれません。ただでさえ戦争で気分が滅入っているのに、この決定にはウンザリ…

もちろん戦争下の医療機関の大変な状況は理解していますが、感染拡大を予防するために教育機関を閉鎖するのは間違っています。これまでブログで何度か書いたように、子供の感染するリスク、また感染させるリスクはかなり低いことは明らかになっています。スウェーデンが小中学校を閉鎖しなかったのも、そういった科学的根拠に基づいた判断です。もっと科学的かつ効果的な対策を講じるべきなのに、一体いつまでこんなことが続くんでしょうか…

コロナよりもっと深刻な問題の戦争ですが、現在も境界線では戦闘が続いています。アルメニア国防省によると、軍事衝突発生から現在までに、カラバフ・アルメニア側の兵士604名、子供や女性を含む民間人34名が亡くなったとのこと…一時停戦合意から全く交戦が収まる様子がないため、ロシアが自国軍の停戦監視団を派遣する可能性を示唆しています。

昨日は、ナゴルノ=カラバフ領内の病院にアゼルバイジャン軍から砲撃があり、建物の一部が損壊したそうです。幸い死傷者は出ませんでしたが、明らかな戦争犯罪だとアルメニア側は非難しています。同じく昨日、アルメニア領内のヴァルデニス地域で、アゼルバイジャン軍のドローン攻撃によって14歳の男子が重傷を負い、現在エレバンの病院で治療を受けています。

また、アゼルバイジャンを支援して紛争に関与しているトルコは、米国からアルメニアへの人道支援物資100トンが自国領空を通過して輸送されることを禁じたため、同物資の配送が大幅に遅延しているそうです。トルコがアルメニアへの貨物輸送を妨害するのは初めてではありませんが、いくらなんでも人道支援物資の輸送まで邪魔するなんて酷すぎ…

さて、以前の記事こちらに、アルメニア人にとってナゴルノ=カラバフがどういう場所かについて書きました。今日は、国際社会におけるナゴルノ=カラバフの法的地位について説明したいと思います。というのも、日本のメディア報道は相変わらず偏りがあると感じるからです。けっこう長くなりますが、最後まで読んでいただければ幸いです。

まず、アゼルバイジャンが自国領土だと主張する根拠として持ち出すのは、2008年の国連の総会決議。「全てのアゼルバイジャン領内占領地からの即時、完全かつ無条件でのアルメニア軍の撤退」という決議で、いつもアゼルバイジャンはこれを盾に自分たちの立場を正当化しています。

しかし、この採決で賛成したのは、たったの39ヶ国で(意見表明したアゼルバイジャンとその友好国のみ)、100ヶ国が棄権し、OSCEミンスクグループ共同議長であるロシア、アメリカ、フランスを含む7カ国は反対しました。つまり、7割以上が賛同していない上に、ナゴルノ=カラバフ問題の平和的解決を主導する国々が反対し、さらに法的拘束力もないため、この決議を国際社会の要求とするのは明らかに無理があります。

実は、約30年前の紛争時に、国連安保理が重要かつ基本となる決議を採択しています。その決議とナゴルノ=カラバフの法的地位について重要な点を以下にまとめてみました。

国連安全保障理事会は、ナゴルノ=カラバフ紛争の解決策について議論や提案をしたことはなく、1993年に、敵対行為の地理的拡大、また他国が紛争に関与する脅威を防ぐために、4つの決議を採択しました。

・その決議の主な要求は、即時停戦と交渉プロセスの再開で、ナゴルノ=カラバフのアルメニア住民も紛争の当事者とされています。また、アルメニアへの唯一の要求は、平和的解決を見出すために、ナゴルノ=カラバフのアルメニア人に可能な限り影響力を行使することです。

・国連は法的承認を行う機能を持たないため、世界のどの地域の法的地位についても議論また承認したことは一度もありません。この決議も、ナゴルノ=カラバフと隣接地域の地位を法的に承認するためのものではなく、その法的地位は交渉プロセスを通じて最終的に明確にされる必要があります。

・ナゴルノ・カラバフ住民の自決権は、OSCEミンスクグループやEU諸国、その他の多くの国々によって認められています。ソ連崩壊に伴って独立したアゼルバイジャンは、そのナゴルノ・カラバフ住民の意思に反して、同地域を自国領に含める権利はありません。

・ナゴルノ=カラバフ住民は、ソ連の憲法や法律、また国際規約によって認められた自決権を行使し、住民投票で独立を選んだのであり、当該地域はアゼルバイジャンの領土保全とは一切関係がありません。


上記を読めば分かるように、国連はナゴルノ=カラバフの法的地位を定めておらず、アゼルバイジャン領土とは一切言及していません。ナゴルノ=カラバフは、国際規約などで認められた民族自決権によって独立したので、アゼルバイジャンの領土保全とは関係ありません。だから、アルメニアとカラバフ側はいつも、「これは自決権と基本的人権の問題だ!」と訴えているのです。

さらにこの安保理決議では、ナゴルノ=カラバフ住民も問題の当事者とされているにも関わらず、アゼルバイジャンはそれを拒否し、これまで交渉プロセスに一度も参加させようとしませんでした。アゼルバイジャンは、停戦や国境封鎖の解除などの要求も履行していません。しかも、この決議には法的拘束力があります。なのに、アゼルバイジャンが、2008年の総会決議だけを国際社会の要求だと主張するのは虫が良すぎます。

しかし、いまだに日本のメディアは、そのアゼルバイジャン側の見解に軸を置いた報道ばかりが目立つようです。2008年の総会決議には触れても、より重要な1993年の安保理決議に触れることは一切なく、アルメニア側の見解は無視され続けています。国際社会の見解を根拠とするなら、この二つの決議と両国の主張を公平に伝えるべきです。

大体メディアが贔屓するアゼルバイジャンが、長年アリエフ一家の統治する独裁国家で、アルメニアへの憎悪を過剰に煽るプロパガンダや教育が30年間ずっと続き、挙げ句の果ては、無防備のアルメニア人を斧で殴り殺した人間を英雄として称えるような国情であることを知らない人も多いでしょう。(その事件についてはこちら

恐らく、この不公平さの背景にはトルコの影響力も大きいかもしれません。例えば、「ナゴルノ=カラバフ」でネット検索すると、TRTというトルコのニュースサイトが上位で出てきます。日本語で書かれ、日本のニュースも詳しく扱っているし、デザインも一見すると日本のメディアかと思ってしまう作り。しかし、トルコ発信なので、当然ナゴルノ=カラバフ関連のニュースは完全にアゼルバイジャン寄りで、アルメニアは徹底的に悪者扱いされています。何気なく検索して、これを見たら、「アルメニアはひどい!」と思うでしょうね…

そのトルコは、紛争の当事国でもないのに、シリア反政府軍傭兵やイスラム過激派テロリストをアゼルバイジャンに派遣するなどの関与を行って状況を悪化させています。そのせいで、今アルメニア人は、関係のない外国人傭兵やテロリストと戦っているのです。アルメニア側にもシリア人兵士がいるという報道を見ましたが、中東には昔からアルメニア人が多く住み、彼らが母国の戦いに参加していても何らおかしくはありません。

ちなみに一昨日、トルコの国会議員が、シリア人傭兵4千人と軍用機をアゼルバイジャンに送ったことに関する質問状を外務大臣に提出しました。また、トルコのF-16戦闘機や軍事ドローンを紛争で使用したか事実確認するよう訴え、国際社会が即時停戦を求めている中、それに逆行する自国の行動を非難しました。完全に一線を超えたトルコの行動は、国内でも問題になっているのです。

とにかく、せめて紛争当事国の双方の主張を公平に伝えてほしいし、このトルコの横暴に対して批判的な報道がもっとあるべきだと思います。ましてトルコは、オスマン帝国時代にアルメニア人虐殺を行った歴史があり、その国がアルメニア人への攻撃を直接支援しているというのは大問題です。ただ、これについては、日本だけでなく世界の多くの国が沈黙しています。その状況について、知り合いのアルメニア人がこう言っていました。

「オスマン帝国は、当時アルメニア人虐殺を隠す必要などなかっただろう。なぜなら、世界はその犯罪行為を無視したから…同じことが今また繰り返されようとしている」

ここに住む数少ない日本人である私の発信する情報は、基本的にアルメニア側の見解に軸を置いたもので、メディアに公平性を求めていながら矛盾しているのは承知しています。しかし、日本のメディア報道がトルコ・アゼルバイジャン側にかなり偏向していることは間違いなく、それについては周りのアルメニア人や日本にいるアルメニア人もとても残念に感じています…

だから、私は今後もアルメニア側の情報や見解をなるべく客観的に伝えていくつもりです。少しでも多くの人に、「そんな情報や意見もあるのか!」と気付いてもらい、もっと様々な視点から、この領土問題や紛争のことを考えてもらうきっかけを作りたいのです。そして、戦争の悲惨さと平和の大切さを知ってほしいと思っています。

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コロナで教育機関は閉鎖されましたが、レゴ教室は開け続けるそうです。エライ!なので、今日も連れて行く予定。

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アレンもレオも楽しそうに通っています。もしここも閉まったら、二人とも可哀想…

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今起こっている戦争のことなど知らず、無邪気に遊ぶ子供たちを見ていると、時折なんだか辛くなります。一刻も早く収束してほしいです。

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