今回の軍事衝突のメディア報道を見て
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昨日お伝えしたように、27日早朝にアゼルバイジャンとの大規模な軍事衝突が発生し、現在も激しい交戦が続いています。現地のネットやテレビでは、幼い子供が亡くなったニュース、家を破壊された老人や狭く暗いシェルターで過ごす家族などの様子が連日伝えられ、戦争の悲惨な現実に胸が締め付けられます。
アルメニア国防省の発表によると、現在までにアルメニア側の兵士84名が亡くなり、120名以上が負傷したそうです。今日は、アゼルバイジャン軍が国境近くのアルメニアの村々を攻撃し、民間人も対象となっているようです。幸い誰も乗っていませんでしたが、一般の乗り合いバスが砲撃されました。この11年間で経験したことのない緊迫した状況です。
今回の軍事衝突のことを知って、心配した友人や知人の方からメッセージを頂いています。お陰さまで、エレバンは特に普段と変わりなく、私と家族も平穏に暮らしています。ただ、多くの男性が志願兵として戦地に向かったからか、街中で人が普段より少ない気がしますし、国民の愛国心や団結心は極限まで高まっていて、平時ではないことを強く感じます。
ところで、連絡を下さった知人の一人から、「日本の報道はアゼルバイジャン側の発表に軸を置いている印象を受ける」と聞きました。実は、私も以前からそう感じる部分があったので、今回の衝突に関する日本のメディア報道をいろいろ見てみたら…うーん、確かに偏ったものが多い気がします。アゼルバイジャン側の「アルメニア軍の挑発行為に反撃した」という主張の方が印象に残る構成になっていたり、中には、アルメニア側の発表には一切触れていないものもありました。
アルメニアも当初からずっと、「アゼルバイジャン軍が大規模な攻撃を仕掛けてきた」と主張しています。さらに、アゼルバイジャン軍はステパナケルトなどに住む民間人も攻撃の対象にし、それを裏付ける情報はいくらでもあります。しかし、日本のメディア報道は、そのアルメニア側の主張よりも、アゼルバイジャン側が発信する主張や情報に偏重している印象を強く受けます。
なぜこれほど不公平な報道になるのでしょうか…日本にとって、資源大国アゼルバイジャンとの関係の方が重要だからかもしれません。また、アゼルバイジャンの同盟国トルコとの関係を考慮しているのかもしれません。トルコは、この地域で最も影響力を持つ大国の一つですからね。
例えば、昨日トルコの通貨が暴落した背景を分析したネット記事では、アルメニアとアゼルバイジャンの軍事衝突が、トルコの地政学的リスクを拡大させたことが一因とありました。さらに、トルコ政府がアルメニアの攻撃を国際法違反と強く非難したとも書いてありました。
これを読むと、アルメニアが一方的に招いた衝突でトルコが被害を被ったかのような印象を受けますが、実際はその逆で、トルコは常にアゼルバイジャンの反アルメニア外交に深く関係しており、軍事面でもかなりの支援を行っています。今回の衝突の原因も、その両国が事前に準備した先制攻撃である可能性が高く、さらにトルコは、アゼルバイジャンに多数のシリア人傭兵も派遣しています。(トルコは、リビア内戦にも派遣して問題になりました)
大体アルメニアは、争っているナゴルノ=カラバフ領土全てを実効支配しているため、わざわざ自分の方から大規模な攻撃を仕掛けて混乱を招く必要はありません。著名な国際政治学者も、「アルメニアが挑発行為や先制攻撃をするメリットは何もない」という見解を述べています。
なのに、日本の報道は、そういった背景などを調べもせず、アゼルバイジャン寄りの情報を流すことが多いと感じます。かと言って、アルメニア贔屓の報道をしろなどとは思っていません。私自身、アルメニア側の発表や主張を鵜呑みにしている訳ではないし、まして戦時には、自国に有利な情報だけを流す傾向が強まるため、あくまでアルメニア側の見解として捉えています。
しかし、それぞれが全く異なる主張をしている訳ですから、報道する側は、なるべく双方の意見や立場を公平に伝えるよう心がけてほしいと思います。特に日本ではアルメニアやナゴルノ=カラバフの問題についてほとんど知られていないため、偏った情報ばかり流されると、多くの人がそれを信じ込んでしまう危険性があります。
話は変わりますが、先週土曜は、アルメニアの偉大な音楽家コミタス の生誕151周年を記念するコンサートが開かれたので、妻と行ってきました。素晴らしいコンサートで、美しい音楽に心が癒されました。しかし、その翌朝に軍事衝突が勃発し、国の雰囲気が一気に緊迫しました。暗くなるニュースが続き、国民の多くは悲しみと不安に覆われています。
一瞬にして全てが大きく変わってしまい、この国が置かれた極めて不安定な状況を改めて認識しました。平和がいかに脆く、そして何よりも尊いものであるかを痛感しました。一日でも早く情勢が収束して、平穏な日々が戻ってきてほしいと切に願います。
コロナの影響で、コンサートなどは基本的に野外のみ。しかし、この日は途中から雨が降ってきて…
ホール内に移動となりました。やっぱり音響が違う!ラッキーな雨でした。写真はホヴェルという合唱団で、いつも素晴らしいコーラスを聞かせてくれます。
コミタス弦楽四重奏団の演奏。これも本当に素晴らしかった!ちなみに国内全てのコンサートは、今の紛争に勝利するまで中止となっています…早く再開される日が来ますように!
- [2020/09/29 21:39]
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