カラバフとアゼルバイジャンの代表団が会談
今朝、テレビ朝日の「グッド!モーニング」という番組で、今回のカラバフでの出来事が取り上げられ、私のインタビューも放送されました。昨日、急遽ネット取材を受け、現地に住む日本人として質問に答えました。知人が動画を送ってくれたので、私も見ました。
番組は、カラバフの問題そのものに焦点を当てているというより、それを通してロシアの影響力低下などを伝える方向だった気がします。なので、私の発言内容も、番組の方向性に沿った形で切り取られて編集されていました。できれば、もっと今ここで起こっていること自体を掘り下げて伝えてほしかったですね。
そのインタビューでも話しましたが、昨日9月21日はアルメニアの独立記念日でした。しかし、その直前にアゼルバイジャンによるカラバフ領域への攻撃があったため、全くお祝いムードはありませんでした。それどころか、多くのアルメニア人が暗く悲しい気持ちで過ごしていたはずです。
明後日に予定されていたヒップホップ歌手のスヌープ・ドッグの大規模なコンサートも延期されたそうです。この状況でコンサートを行うなんてできるわけないので、仕方のない判断でしょう。
前回の記事に追記で書いたように、19日に始まったアゼルバイジャンが「対テロ軍事作戦」と呼ぶ攻撃は、20日にロシアの平和維持軍の仲介でカラバフ側と停戦合意に達したことで収束しました。アゼルバイジャンが要求していた軍の武装解除をカラバフ側が受け入れたからです。停戦合意が発表される少し前に、カラバフの大統領が「厳しい決断を迫られている」という声明を出したので、この結末の予兆はありました。
これは事実上のカラバフ側の全面降伏で、アゼルバイジャンへの再統合について交渉を行うことも受け入れました。約30年に及ぶアルメニア系住民による自治、またアルメニア含め国際社会からは未承認ですが、カラバフ国家の独立が終わることを意味します。
その双方の代表団による初会談は、奇しくもアルメニアの独立記念日であった昨日にアゼルバイジャン中部のエブラフで開かれました。ロシア平和維持軍の仲介の下、再統合に関する様々な課題について話し合われ、今後も交渉を続けることで合意したそうです。
交渉後にアゼルバイジャンの代表団は、「カラバフとの直接交渉が実現したことで、アルメニアと長年続いた対立が終わる可能性があり、平和条約締結に大きく近づいた」と述べました。ロシアの報道官も、「平和条約締結に必要な前提条件がすべて揃った」と述べました。
しかし、アルメニア人にとっては屈辱的なことで、内閣府や国会議事堂の前で抗議デモが行われています。参加者らは、現政府に大きな責任があるとして、パシニャン首相の辞任を求めています。ただ、基本的にエレバンは平穏で、多くの市民は普段どおりの生活を送っています。息子たちも学校に、妻も大学院に通っています。
政府に抗議している市民らの気持ちは理解できます。同胞民族が攻撃され、民間人を含む多くの死傷者が出ました。さらに、カラバフ国家が消滅しようとしているのですから、その怒りと悲しみは耐え切れないものでしょう。まして、虐殺など苦難の歴史があるので、今の状況に民族アイデンティティを深く傷つけられたと感じるのも無理ありません。
もちろんアゼルバイジャンの武力行使は非難されるべきものです。しかし、当ブログで何度も言及しているように、30年もの間、この領土問題を交渉によって解決できなかった責任はアルメニア側にもあります。譲歩や妥協をせずに根本的な解決を先延ばしたことで、問題をより複雑化させ、過酷な試練や悲劇を招いてしまったように思います。
昨日の独立記念日にパシニャン首相は演説で、「平和を休戦や停戦と混同してはならない。平和とは、二度と争いが起こらない環境であり、それを達成する道のりは容易ではなく、未来のために多くの困難を乗り越えなければならない」と述べました。
確かに、第一次カラバフ戦争後の”平和”は砂上の楼閣だったのではないでしょうか…そんな見せかけの平和は、常に多くの犠牲を必要とし、いつ破綻するか分からない脆いものです。それが3年前に現実のものとなりました。その厳しい現実を受け止め、真の平和を確立できるよう、隣国との対立を一刻も早く解決すべきだと思います。
とはいえ、この急激な状況の変化は予断を許しません。カラバフがアゼルバイジャンに再統合された場合、そこに住むアルメニア系住民の人権と安全が守られるのかは疑問です。たとえアゼルバイジャン側がそれを保証する用意があったとしても、これまでの根深い対立の歴史から、アゼルバイジャン統治の下で暮らすことを望まない市民は多いでしょう。
そのため、カラバフからアルメニア本土に多くの市民が移住してくる可能性があります。アルメニア政府は、「彼らが自分たちの故郷カラバフで安心して暮らせるよう、あらゆる努力を講じる」と述べていますが、移住者のために、すでに4万人以上の住居の提供準備があるとも述べています。
アルメニアに住む私にとって、今後どのように事態が展開していくかはとても重要なことです。しかし、何があろうと、きっといつか平和が訪れると信じています。愛するアルメニアの行末を、希望を捨てずに見守りたいと思っています。
そして、これからも多角的に情報を調べて、なるべく冷静に状況を見るよう努めながら、アルメニアの情勢を当ブログで伝えていくつもりです。
- [2023/09/22 18:02]
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アゼルバイジャンがカラバフを攻撃
今日は、日曜のワイナリー訪問のことをご紹介しようと思っていましたが、日本でも報道されていたように、カラバフが大変な状況に陥っているので、急遽それについて書きたいと思います。
昨日午後、アゼルバイジャン軍が首都ステパナケルトを含むカラバフ領域に砲撃を行っているという速報がありました。そして、境界線でも攻撃が行われているという情報も飛び込んできました。エッ!まさか?!と一瞬信じられませんでしたが、アゼルバイジャン政府が正式に「対テロ軍事作戦を開始した」と発表したことを知り、報道が事実であると分かりました。
3年前の同じく9月に戦争が始まった時は、いつものように数日で終わるだろうと思いました。しかし、その後にステパナケルトが砲撃されたというニュースを見た時に、「もしかすると本格的な戦争に発展するのでは…」と大きな不安に襲われました。昨日はそれと同じ不安と戦争のトラウマが蘇り、一気に暗澹たる気持ちになりました。
アゼルバイジャンは、今回の攻撃を「局地的な対テロ作戦」と呼んでいます。カラバフ領内のアルメニア軍の撤退や武装解除が目的だからだそうで、彼らの主張によると、アルメニア軍組織がカラバフに駐留して、銃撃や地雷埋設などの敵対行為を行っており、最近その地雷の爆発によってアゼルバイジャン人が死亡する事件が続発したとのこと。アリエフ大統領は、カラバフのアルメニア軍の武器引き渡しが作戦停止の条件だと述べています。
アルメニア政府は、自国軍がカラバフには駐留しておらず、事実無根だと否定しています。そして、「これはカラバフへの侵略攻撃であり、残虐な民族浄化だ」と激しく非難しています。カラバフからの情報によると、アゼルバイジャンの攻撃により、これまで民間人7人を含む32名が死亡し、200人以上が負傷したとのこと…また多くの血が流されている状況に胸が痛みます。
国際社会もこの深刻な事態に反応しており、各国はアゼルバイジャンに対し、即刻攻撃を停止するよう求めています。また、国連安全保障理事会は明日ナゴルノ・カラバフ問題を議論する会合を召集する予定だそうです。ただ、これらの要求や決議が事態の収束に繋がるかは疑問です。
係争地に平和維持軍を駐留させているロシアは、紛争当事者の双方と緊密に連絡を取り合い、事態の収束のためにあらゆる手段を講じていると述べました。そして、3年前に署名された停戦合意を履行できるよう、問題解決のプロセスを交渉のテーブルに戻すよう尽力していると述べました。
しかし、ロシアとその平和維持軍が、アゼルバイジャンの軍事行動を抑制しないことに一部のアルメニア市民は激しく怒っており、昨日はエレバンのロシア大使館前で抗議デモがありました。また、アルメニア政府が今回の事態に軍事介入しないと表明したことに反対する市民らが、内閣府建物の前で激しい抗議活動を行い、逮捕者や負傷者が出ました。政府はクーデターの危険があると警鐘を鳴らしています。
同胞民族の危機を見過ごせないという彼らの気持ちは分かりますが、国際社会も、またアルメニア政府も公式にアゼルバイジャン領だと認めるカラバフに軍を派遣すれば、それはアゼルバイジャンへの攻撃と見做され、再び二国間の大戦争に発展するのは確実で、トルコも同盟国アゼルバイジャンを支援するために参戦する可能性があります。そんなことになれば、いかに悲惨な事態を招くかは想像に難くありません。
ここ最近のニュースから不穏な空気や緊張の高まりがあったことは感じていましたが、あまりに突発的な出来事で、情報が錯綜しており、私自身も状況をどれだけ正確に把握しているか自信がありません。しかし、一方的な情報を鵜呑みにせず、なるべく感情を抑えて、冷静に事態を把握するよう努めています。とはいえ、平和への希望を打ち砕かれる現実を前にして、不安と悲しみで押し潰されそうになる自分がいます…
奇しくも明日9月21日は、アルメニアの独立記念日です。旧ソ連から独立して今年で32周年。アルメニアは1990年の8月23日に独立宣言を採択したのですが、先月パシニャン首相がそれを記念して発表したスピーチに、「平和が訪れない限り、アルメニアは旧ソ連の亡霊から逃れることはできない」とありました。
元はと言えば、カラバフ問題はスターリンの民族分断政策に起因します。その旧ソ連が残した負の遺産のために、独立後も長い間アルメニアとアゼルバイジャンは対立し続け、お互い多くの犠牲を払うことになりました。そして、いまだに争いの連鎖を断ち切れず、今回のような悲劇が起こりました。
3年前と同じく、戦争がいかに悲惨なものかを痛感しています。平和がいかに尊く、そして脆いものかを痛感しています。とにかく一刻も早く事態が収束することを祈っています。
追記:今日の現地時間13時、ロシア平和維持軍の仲介により、カラバフとアゼルバイジャンは停戦合意に達しました。カラバフ側は、アゼルバイジャンが要求していた軍の武装解除を受け入れたとのことです。そして、明日21日にアゼルバイジャン中部のエブラフで、双方の代表者がカラバフの今後について会談する予定だそうです。
- [2023/09/20 15:55]
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深刻化するカラバフの人道的危機
今週も暑い日が続いています。涼しかったセヴァン湖から戻ると、余計に暑く感じますね。ただ予報を見ると、先週が暑さのピークだったみたいで、当分は40℃を超える日はなさそうです。
月曜にアルメニアで悲惨な交通事故がありました。ギュムリとエレバンを結ぶ幹線道路で、ミニバスとトラックが正面衝突し、11人が死亡、6人が重傷を負いました。ミニバスに乗っていたのは、東トルコツアーに参加したアルメニア人観光客で、新婚夫婦もいたとのこと…トラックが対向車線に入ったことが原因らしく、運転手の過失が疑われています。彼も重傷を負いましたが、深夜の事故だったから、居眠り運転の可能性が指摘されています。
ヒップホップ歌手のスヌープ・ドッグが9月下旬にエレバンでコンサートを開く予定です。最大2万5千人規模のコンサートで、スヌープ・ドッグ自身も伝説的なイベントになると語っています。しかし、このコンサート開催にアルメニア政府が600万ドルを出資したことが問題になっています。政府は「観光産業促進のための投資だ」と説明していますが、「教育や福祉などもっと他にお金を使うべきだ!」と批判されています。
さて、昨年末からすでに8か月も続いているアゼルバイジャンによるラチン回廊の封鎖問題。当ブログでも何度も触れているように、その封鎖によるカラバフ市民の人道的危機がかなり深刻化しています。エネルギーや各国からの人道支援物資の供給の停止によって、ライフラインや食糧や医薬品などが欠如し、市民の生活と生命が脅かされているそうです。
カラバフの人権保護団体の報告によると、この長期的な封鎖による市民の人道的危機は深刻で、特に女性や子供、高齢者や病人など社会的弱者に大きな影響を及ぼしているそうです。例えば、生活環境の悪化により、早産が増えているとのこと。また、燃料不足で救急車が稼働できないため、妊婦が病院に辿り着けず流産するという悲しい出来事もあったそうです。さらに、男性一人が飢餓による栄養失調で死亡したとのこと…
上記の報告が本当であれば、かなり悲惨な状況で胸が締め付けられます。そのため、アルメニアの要請により、今週は国連安全保障理事会の緊急会合が開かれて、この問題について議論されました。参加国の多くは、ラチン回廊の封鎖解除、またカラバフの人道的危機に対して緊急な措置が必要であると述べました。会合に出席したアルメニア外相も、国連の協力を強く求めました。
しかし、国連という組織が、こういう問題に積極的かつ効果的な行動を起こす可能性は低い気がします。いつものごとく形式的に会合を開いて、強制力のない声明や決議を出して終わりではないでしょうか…そんな国際機関にいくら促されても、アゼルバイジャンが封鎖を解除するとは思えません。向こうは、「ラチン回廊を通して、アルメニアがカラバフに軍事支援を行っている」と従来の主張を根拠に封鎖を正当化するでしょう。
とはいえ、今カラバフで起こっている悲劇は、一刻も早く止める必要があります。そうでなければ、さらに被害が拡大して、多くの犠牲が出てしまいます。アゼルバイジャンの主張の真偽はともかく、カラバフ市民を兵糧攻めにして、独立の希望を挫き、アゼルバイジャンへの帰属を受け入れさせること、またアルメニア側にアゼルバイジャン本土とナヒチェバンを結ぶ回廊建設を認めさせることなどが目的である可能性は高いです。
いずれにしても悲惨な結果を招く非人道的行為ですが、これは30年も領土問題で譲歩できず対立し続け、根深い憎悪が醸成されたことによる結果…そのために、戦争で多くの犠牲を出し、今またカラバフの一般市民が犠牲になろうとしています。
ちなみに、トルコの政治家や知識人や人権活動家らも、このアゼルバイジャンの政策を厳しく糾弾し、大惨事になる前に封鎖を解除すべきであり、カラバフ市民を救うために国際社会も即刻介入すべきだと訴える声明を出しました。アルメニア系住民だけでなく、多くのトルコ人もこの声明に名を連ねていることに驚くと同時に胸が熱くなりました。
しかし、この事態を打開するには、国際社会の介入よりも、結局はアルメニアとアゼルバイジャンが交渉を行い、問題解決に向けた合意に達するしかない気がします。もちろんロシアや欧米の仲介が必要になるでしょうけど、何より両国の意思と決断にかかっていると思います。
パシニャン首相は、「ラチン回廊封鎖を含むアゼルバイジャンの敵対行為が、和平確立の歴史的チャンスを損ねている」と非難しています。この地域と未来の世代の平和のために、歴史的チャンスを逃さず、両国が現実的な交渉を重ねて和平への道筋を探ってほしいと思います。
一昨日の終戦記念日に、天皇陛下は「過去を顧み、深い反省の上に立って、再び戦争の惨禍が繰り返されぬことを切に願う」と述べられました。日本は先の大戦で負けて多くを失いましたが、戦後ずっと平和を維持してきました。それは何にも代えがたく、反省と努力の上に築かれる尊いものです。アルメニアにも、争いのない真の平和が訪れてほしいと切に願います。
ロボティックスのクラスに楽しく通うアレン
カルボナーラが大好きなアレンが料理のお手伝い
美味しそうに食べるアレンとレオ。伸びていた髪を二人ともバッサリ切りました。
庭で飼っている猫を可愛がるアレンとレオ
自分で簀巻きになるレオ
服の下にボールを入れておどけるレオとアレン。二人がいると騒がしいけど楽しいです。
- [2023/08/17 19:42]
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平和条約締結への決意
少し天気は不安定ですが、予報されていたほど悪い天気ではありません。ただ、今週末もあまり晴れそうにないですね…あまり暑くなくていいんですけど、やはり青空が広がっている方が気持ちがいいです。
広島G7サミットが終わりました。ゼレンスキー大統領の電撃参加が注目を集めたようですが、日本含め欧州各国は、従来と変わらず、ウクライナへの資金面・軍事面の支援を強調するだけでした。ゼレンスキー大統領と面会できなかったブラジルのルラ大統領の「交渉によって解決すべきであり、G7ではなく、国連などで議論すべきだ」という発言の方がよっぽどまともに感じます。
あと、せっかく広島で開催したのに、核兵器廃絶に向けた明確なビジョンが発信されませんでした。「核兵器は、防衛目的のための役割を果たして侵略を抑止する」という言葉は、ただ欧米側の都合のいい理屈にしか聞こえないし、その理屈が正当化されるのであれば、どの国だって自主防衛のために核を保有してもいいことになります。
次男レオは学校の授業が今日で終わります。長男アレンも、明日学校でイベントに参加して終わりです。それからは8月末まで夏休み!細密画やチェスなどの習い事はありますが、自由でのんびりした日々になります。いいなー羨ましい!
私と妻は今週も仕事で忙しくしています。まあ、やるべき仕事があるってありがたいことですけどね。とはいえ、明後日から息子たちは基本的に家にずっといるから、仕事に集中できるか心配…でも、二人とも今は自分たちで勝手に遊ぶことが多いので、以前に比べてずっと楽です。
さて、一昨日パシニャン首相が、「条件付きでナゴルノ=カラバフをアゼルバイジャン領の一部として認める用意がある」と発言したというニュースが日本でも報道されていました。ウクライナ侵攻後にロシアのコーカサス地域への影響力が低下しているとか、アルメニアのロシア離れが進んでいるという内容も併記されているから、いつものごとくメディアはただロシア批判をしたいだけなのかもしれませんが…
パシニャン首相は上記のような発言を1か月ほど前にも議会でしており、それについては当ブログにも書きました(こちら) なので、私にすると特に驚くようなニュースではなく、アゼルバイジャンとの平和条約締結のため、改めてアルメニア政府の決意や方針を述べたに過ぎません。
というか、アゼルバイジャンの領土の一体性については、過去のアルメニア政府も認めてきました。しかし、そのことをきちんと国民に伝えようとせず、交渉で譲歩や妥協ができないまま、問題の解決が先延ばしにされてきたのです。もちろん住民の多くをアルメニア系が占めるナゴルノ=カラバフの地位を巡っては、双方の意見や立場に大きな隔たりがあるため、簡単に解決できる問題ではないことは確かです。
だからこそ、カラバフのアルメニア系住民の権利と安全が保障されることを、アゼルバイジャンの領土保全を認めるために不可欠な条件としているのです。そして、そのためにはカラバフ政府とアゼルバイジャン政府が直接交渉を行い、国際組織の介入や協力が必要だとしています。
いずれにしても、このパシニャン首相の発言に対して怒りを禁じ得ない市民も少なからずいると思います。長年対立してきたアゼルバイジャンが、カラバフのアルメニア系住民の権利や安全を保障するはずなどないと猜疑心に駆られるのは当然でしょう。また、カラバフのアゼルバイジャンへの帰属を認めたら、一体何のためにこれまで多大な犠牲を払ってきたのか…という無念も理解できます。
しかし、私個人は、この問題を解決するには、現政府が掲げる方針しかないだろうと思います。これまで避けてきた現実と向き合い、厳しい譲歩や妥協をして平和条約を締結するしかないと思っています。払ってきた多大な犠牲は、終わりなく続く争いのためではなく、母国の平和のためであるべきです。そして、その平和とは、未来のために苦渋の決断をして憎悪と対立の連鎖を断ち切らなければ実現できません。
ちなみにパシニャン首相が先月から二度も、「ナゴルノ=カラバフをアゼルバイジャン領と認める用意がある」と公に発言したにも関わらず、野党や市民らのデモなどは起こっていません。先月の議会での発言を聞いた時は、国内で激しい反発を生み、大規模なデモが発生して混乱するかもしれない…と少し不安になりましたが、意外にも国内は平穏そのものです。
これは国民の多くが、さらに野党までもが現実を受け入れつつあるという証左なのかもしれません。戦争のない社会を築くには、この現実を受け入れるしかないと思っている人が多いのかもしれません。私は以前から、そういう声なき声を持つ人が増えているのではないかと感じていました。
「カラバフは渡してはならない!譲歩せずに戦うべきだ!」という勇ましい意見は愛国的で発言しやすいですが、現実を受け入れて譲歩すべきだという意見は、アルメニア人としては言いづらいでしょう。しかし、たとえ口に出さずとも、そう考える市民は確実に存在しています。なぜなら、もう戦争なんて嫌だからです。争いで人が死んでいくのを見たくないからです。
私も同じです。もう二度と3年前のような経験をしたくありません。毎日尊い命が失われ、国全体が憎悪と悲しみに覆われる…そんな悲惨な戦争を決して繰り返してほしくはありません。子供たちの未来が平和であってほしいと心から願っています。
平和は与えられるものではなく、自分たちで築いていくものであり、それには犠牲や妥協は避けられません。現実に向き合い、アルメニアとアゼルバイジャン両国が正しい決断をして、平和に向けて少しずつ前進してほしいと思います。明日モスクワでアルメニアとアゼルバイジャンの首脳会談が予定されています。難しい交渉になることは必至ですが、平和条約締結の実現に一歩でも近づいてほしいと思います。
週2回チェスの学校に通うレオ。課題を考える姿が可愛らしい!
学校から帰るとすぐロシア語でネットの動画を見るアレン。あまり見過ぎないようにはしていますけど、こうやってロシア語を自然に覚えたのだから便利ではあります。
ネットを見過ぎて運動不足にならないよう、夕方に近所で遊ばせます。私の自転車にも上手に乗れるようになったアレン!
レオはキックスクーターが大好き!
最近うちの飼い猫が外に逃げてしまうことがありました。幸い戻ってきたからよかったけど、気をつけないと。また出たいのか、窓から外を眺めています。
うちの猫と仲良しのノラ猫。ほぼ飼われているかのごとく、庭のブランコで呑気に寝ています。可愛いなあ
- [2023/05/24 19:17]
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平和条約締結交渉の行方
今日は朝から曇り空ですが、セーターやジャケットは不要なほど暖かくなりました。予報によると、まだ不安定な天気が続くみたいでちょっと気が滅入ります。しかし、気温はどんどん上がっていくようです。
昨日、次男レオのパスポート更新のために日本大使館に行ったら、ガーシー元議員に対する旅券返納命令の張り紙がありました。私はこの人の話題に全く関心がないのでよく分かりませんが、今は各国の日本大使館に同じ張り紙がされているのかもしれませんね。まあ、アルメニアに潜伏している可能性はゼロでしょうけど…
一昨日アルメニア政府は、これまで行われてきたトルコとの国交正常化交渉、またアゼルバイジャンとの平和条約締結交渉の詳細を発表しました。そして、議会でパシニャン首相が、かなり重要な発言をしました。というのも、実質的にナゴルノ=カラバフはアゼルバイジャンの一部であると認める内容が含まれていたからです。
パシニャン首相は、2007年のマドリッド原則によると、ナゴルノ=カラバフの法的地位などはアゼルバイジャンとの合意によって決定されるべきで、これは同地域がアゼルバイジャンの一部であることを認めているに等しいと述べ、さらにアルメニアはアゼルバイジャンの領土保全を完全に認めると発言しました。
そして、国際的に認められている両国の領土を相互承認することで平和条約の締結は可能であり、それは同時にナゴルノ=カラバフを実質的にアゼルバイジャンの一部と認めなければいけないと、パシニャン首相は述べました。この国際的に認められている領土というのは、旧ソ連時代の境界線に基づいているため、ナゴルノ=カラバフはアゼルバイジャン領になります。実際に、同地域の独立は国際的にほとんど認められていません。
パシニャン首相は、政府が上記のような自国にとって不都合な事実を長年伝えてこなかったことで、アルメニア国民とカラバフ市民を欺き、それが過去の紛争の原因となったと自戒の弁を述べました。そして、今その事実に向き合わなければ、アゼルバイジャンとの平和条約を締結することは不可能であり、アルメニアとカラバフ市民の安全保障のためには、国際社会の介入や協力が不可欠だと強調しました。
これは衝撃的かつ歴史的な発言かもしれません。野党や多くの市民の反発が予想されますが、ついにアルメニア政府が現実的な方向でカラバフ問題を解決する決意をしたように私は思います。3年前の第二次カラバフ戦争が起こってから、私はそれまでの知識や先入観を捨てて、改めてこの領土問題を多角的に調べるようになりました。すると、この紛争においても完全な善悪は存在しないこと、そしてアゼルバイジャンほどでないにしろ、アルメニア政府も自国にとって都合のいいプロパガンダを続けていたことに気づきました。
例えば、カラバフ周辺の領土をアゼルバイジャンに返還すべきということは、先述のマドリッド原則にもはっきりと明記されており、国際社会も履行するようアルメニアに求め続けてきました。しかし、過去のアルメニア政府は、その合意について国民に理解を求めようとはせず、交渉においても一切譲歩しませんでした。そうやって30年間も本質的な解決が先延ばしにされてきたのです。
とはいえ、元々アルメニア系住民が多く住み、ソ連崩壊時にアゼルバイジャンからの分離独立を求めたカラバフの扱いはとても難しい問題です。もしアゼルバイジャンに再帰属された場合、どれだけ強い自治権を与えられたとしても、住民の権利と安全が保証されるのかについては大きな懸念があります。アルメニア民族の長い苦難の歴史、また両民族の憎悪や反感の根深さを考えると、アルメニア人にとってそれは受け入れ難いことではないでしょうか…
ただ、その国民感情は十分理解できますが、厳しい現実に正面から向き合わないと、いつまでも憎悪と争いの連鎖を断ち切ることはできません。延々と人が傷つき命を落とすという悲劇が繰り返されます。これまで払われた多大な犠牲は、そんな終わりのない悲劇のためではなく、将来の国の平和のためであるべきです。そして平和を実現するためには、現実的な交渉を進めていくしかありません。
愛国心とは、敵対して戦うことだけでなく、国の未来にとって本当にどうすべきかを考えて苦渋の選択することも同じです。今コーカサス地域は、過去を乗り越え、平和な社会に近づくために重要な選択に迫られています。また、当ブログで何度も書いているように、世界は今ものすごい勢いで多極化しています。その大きな歴史の転換期において、この地域も融和していく必要があり、そのためにはトルコやアゼルバイジャンとの関係正常化は不可欠です。
3年前の戦争は、私にとって人生で最悪ともいえる経験でした。毎日多くの若い兵士が亡くなり、国全体が悲しみと怒りに覆われました。終わりの見えない悲惨な戦争の中で、いつも心は暗く重く張り裂けそうでした。希望を失いかけて、思わず涙が流れることもありました。そして、平和の尊さを嫌というほど痛感しました。もう二度とあんな経験はしたくないし、愛する息子たちにも将来してほしくありません。
アルメニアで教会を、日本で寺社を訪れた時に、いつも私は心から強くこう祈っています。「アルメニアに真の平和が訪れますように。息子たちの未来が、争いのない平和な社会でありますように」この歴史的な機会を逃さず、平和条約が少しでも早く締結されて、私の祈りが実現してほしいと思います。
一昨日は妻の従兄弟の息子さんの誕生日でした
晴れていると暑いぐらいの陽気で、水が冷たくて気持ちいい!
緑がまぶしい季節になってきました。アレンは半袖で遊んでいます。
兄弟で仲良く遊ぶアレンとレオ
息子たちの未来が平和でありますように!
アルメニアに真の平和が訪れますように!
- [2023/04/20 23:44]
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