難航する両国の和平プロセス 

雲が空を覆うことが多く、すっきりしない天気が続いていますが、気温は少し上がって、それほど寒くはありません。しかし、来週は一気に寒くなって雪も降るという予報が出ています。

イランとパキスタンの間で緊張が高まりました。中東の紛争が拡大化している時の出来事でヒヤッとしましたが、その後、両国は関係を正常化する方向で動いているようです。しかし、今年も世界情勢は波乱含みの様相を呈しています。

ロボティックスのクラスを終えたアレンが、先日プログラミングのクラスを少し体験しました。本人はあまり関心なさそうですが、ロボティックスで仲良くなかった子供が通うからということで参加しました。悪くはなかったようですが、実際に続けるかどうかは考えたいとのことです。

髪がかなり長くなっていたアレンとレオは、今日いつもの子供用の床屋に行って散髪しました。二人とも長めの方が好きなのと、寒い季節ですから、そんなにバッサリとは切りませんでしが、二人ともけっこうすっきりしました。

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プログラミングのクラスの説明会にはレオも参加しましたが、質疑応答の時間になると、「もう終わり?」と質問して、周りを笑わせていました。あまり関心がないようです。

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前髪を上にまとめて散髪してもらうレオ。女の子みたい!

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散髪後に近くのレストランでハンバーガーを食べるアレンとレオ

さて、記事タイトルにあるように、アルメニアとアゼルバイジャンの和平プロセスに暗い影を落とすようなニュースがありました。それは、先日アリエフ大統領が自国メディアとのインタビューで述べた発言内容です。

アリエフ大統領は、アルメニア領内を通ってアゼルバイジャン本土と飛地ナヒチェバンを結ぶ治外法権を持った回廊、またソ連時代に自国領土であった飛地や国境付近の村の無条件返還を要求し、3年前の戦争以降に占領した国境地域からの自国軍の即時撤退を拒否しました。

アゼルバイジャンが「ザンゲズル回廊」と呼ぶ上記の道路については、これまでも両国間で問題となりました。アルメニアは、停戦合意には「すべての通信輸送ブロックの解除」という文言はあるが、ザンゲズル回廊という言及はないと反論しています。また、たとえ回廊が開通したとしても、アルメニアの管轄下に置かれて管理されるべきだと主張しています。

アルメニアは、その回廊ではなく、イラン領内の交通網を発展させて、アゼルバイジャン本土とナヒチェバンを結ぶ計画を提案しています。ちなみに、イランもそちらの計画を支持し、ザンゲズル回廊には強く反対しています。自国のアルメニアやその北へのアクセスが遮断される可能性があるからです。

昨年9月にカラバフへの軍事作戦を行った後、アゼルバイジャンはイランとの交通開発の協力を進め、ザンゲズル回廊については言及しなくなったのですが、アリエフ大統領はインタビューで、アルメニアが同回廊の開通を受け入れない限り、両国が国境を開くことは決してないと明言しました。

また、アルメニアが和平プロセスに不可欠と主張する国境確定についても、アリエフ大統領は、平和条約締結後に解決すればよいと主張しました。そして、国境確定作業では、アルメニアが基準とする1991年時の境界線ではなく、それより以前のものを参考にすべきであり、当時アゼルバイジャン領だった飛地や村の無条件返還を要求しました。

その上で、国境が確定しない限り、3年前の戦争以降に占領した国境地域から自国軍を撤退させるつもりはないと述べました。つまり、アルメニアが平和条約の前提条件と考える相互の領土承認および国境からの軍撤退について、アゼルバイジャンは相容れない立場であると明確にしたのです。

さらに、平和条約締結において、アルメニアは第三国の保証人が必要だと主張していますが、アリエフ大統領は、それは必要なく、二国間で決定すべき問題だと述べました。アルメニアは、米国やフランスなど西側諸国の仲介を重視しており、それに反発するアリエフ大統領との間には大きな意見の隔たりがあります。

これについては、私個人も欧米による仲介や干渉には疑問を感じています。先日ロシアのラブロフ外相は、「アゼルバイジャンは平和条約に署名する準備があるが、アルメニアの立場は明確ではない。西側諸国による積極的な介入が、元々合意したフォーマットによる交渉の進展を阻害している」と述べました。

アルメニアにすると、不信感から安全保障をロシアに依存したくないという思惑があるでしょう。かといって、西側にすり寄って、この地域に東西対立の構造を持ち込むことは危険です。この地域の問題は、当事国と周辺関係国が話し合って解決すべきであり、西側諸国が自分たちの利害を持ち込んで干渉することではありません。

ウクライナの戦争も、欧米諸国が反ロシアのイデオロギーの下で行う介入のせいで、余計に長期化・泥沼化しています。混乱が続く中東情勢も、欧米は口先ばかりで、これまで現実的な解決を試みることはありませんでした。世界は今ものすごい勢いで多極化しており、アルメニアも自国の利益や立ち位置について長期的な視点で考える必要があると思います。

当然アリエフ大統領による上記の発言や主張に対して、アルメニア政府は反発し、「和平プロセスへの深刻な打撃だ」と非難しました。しかし同時に、交渉は今も継続されており、いかなる困難があっても平和を実現するために努力を行なっていくと表明しました。

アリエフ大統領も、アルメニアと全く相容れない意見を主張すると同時に、なるべく早期に平和条約を締結すべきであり、その基本条件は整っているとインタビューで述べています。どちらも平和条約締結の必要性については一致していますが、そのプロセスや条件に関しては、まだ様々な対立や相違があるわけです。

やはり早期の締結は難しいことが露呈し、残念には思いました。しかし、30年も領土を巡って争い、最終的に武力によって解決されたことを考えれば、融和への道が簡単ではないのは当然のことでしょう。互いの主張や利害がぶつかるのは避けられないことです。

それでも、双方が新たな戦争を望んでおらず、平和条約締結を目指していることは確かで、私は希望を持ち続けています。平和は、どれほど困難があっても達成する価値があるもの。両国が現実的な譲歩や妥協によって歩み寄り、いつかきっと平和が訪れると信じたいと思います。

アルメニアとアゼルバイジャンの和平に向けた共同声明 

朝晩もマイナス気温になることはなく、まだ大して寒くはありません。予報によると、今月中旬から気温が下がるようですが、それでも今年は暖冬傾向のようです。

THEE MICHELLE GUN ELEPHANTのボーカル、チバユウスケ氏の訃報がありました。享年55歳。早すぎる死に悲しみを禁じ得ません…その荒けずりな音楽とボーカルを初めて聴いたときは、彼が敬愛する Dr. Feelgood を彷彿とさせる骨太なロックに衝撃を受けました。ご冥福を祈ります。

先日レオは、歯の治療の麻酔が効いて感覚がないときに唇を強く噛んでしまいました。けっこう痛いみたいで、昨日は「唇が痛いから学校に行きたくない」と泣くから、通学させませんでした。今朝も少し泣きましたが、なんとかアレンと一緒に学校に行ってくれました。私と妻は、「子供は元気で素直やったらそれでええやん!」というスタンスなので、通学を嫌がっても、あまり叱ったりしません。そのうち自分で「行かなきゃいけない」と思うようになるでしょう。

さて、日本でも報道されているようですが、昨日アルメニアとアゼルバイジャンの両国政府は、和平に向けた共同声明を発表しました。両国が和平に関して具体的な文書を出すのは戦争後初となります。

両国は共同声明で、「和平を達成する歴史的な好機がある」と強調し、「主権と領土一体性の原則の尊重に基づいて、両国の関係改善および平和条約締結に向けた意図を再確認し、その信頼構築のために具体的な措置を講じることで合意に達した」と述べています。

合意した信頼醸成措置として、それぞれが捕虜として拘束していたアゼルバイジャン兵2人とアルメニア兵32人を解放するそうです。この捕虜の問題は、3年前の戦争以降ずっと両国の間に亀裂と不信感を生む大きな原因となっていました。その問題の解決に大きな進展があったのは喜ばしいことです。

また、アルメニアは、アゼルバイジャンの来年のCOP29開催地への立候補を支持すると表明して、自国の立候補を取り下げました。アゼルバイジャンは、東欧グループCOP事務局のメンバーへのアルメニアの立候補を支持すると表明しました。そして、両国は、それぞれの立候補を他の東欧諸国も支持するよう希望しました。

トルコも、この共同声明を歓迎して支持するという声明を出し、平和条約ができるだけ早く締結されることへの希望を表明しました。声明では、「アルメニアとアゼルバイジャンの平和条約締結は、南コーカサスの平和と安定を確立するための最も重要な基盤の一つとなるだろう」と述べられています。

いきなり発表された両政府による共同声明、さらにその内容には一瞬目を疑うほど驚きました。ここ最近は平和条約締結交渉に目立った進展はなく、さらに国境で死傷者を出す両軍の銃撃事件が起こったばかりなので、思いも寄らないニュースでした。もちろん水面下でずっと交渉や協議が重ねられて、今回の合意に至ったことは間違いないでしょう。

3年前の今頃は、戦争直後で誰もが暗く重い気持ちで、両国の関係改善を考えることなどできませんでした。その3年後の今、まさかこんな共同声明を目にすることになるとは…まだ少し信じられない自分がいます。おそらく複雑に感じているアルメニア人も少なくないかもしれませんが、私は一筋の光を見た思いです。

両国の間には、まだまだ解決すべき問題があり、平和条約締結への道のりは長く困難なものかもしれません。一進一退を繰り返し、また悪いニュースが出てくる可能性は十分あります。それでも、この和平に向けた共同声明の意義は大きいと思います。少なくとも、私は平和への希望を改めて持つことができました。

この共同声明の趣旨に基づいて、平和な未来を築くために、両国が対立と争いの過去を乗り越えて歩み寄ってほしいと思います。そして、二度と悲惨な戦争が起こらないよう、平和条約締結をなるべく早く実現してほしいと心から願います。

今日12月8日はジョン・レノンの命日。3年前の戦争中、平和を祈って「イマジン」を時々ピアノを弾いて歌っていましたが、悲惨な現状に胸が塞がれて歌いながらいつも涙が溢れました。しかし、いつかきっと明るい希望を持って歌える日が来ると信じています。

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学校を休んだレオは、妻の服を着てゴロゴロしていました。こういう穏やかな日々も平和があってこそ

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お菓子を唇みたいにしておどけるレオ。明らかに学校に行けるほど元気…

激動するカラバフ情勢 

今日は次男レオの7歳の誕生日です。カラバフを巡る問題でアルメニア情勢が混迷しているため、妻は当初、「今年は家族だけで大人しくお祝いしようか」と言っていましたが、それではやっぱりレオが可哀想…ということで、例年通り、学校や近所のお友達と一緒に楽しくお祝いすることにしました。

もちろん、故郷を捨てて避難民となったカラバフの人たちのことを思うと、私も明るい気持ちにはなれません。しかし、どれだけ辛く悲しいことが世の中で起こっていても、なるべく子供たちはそんな現実から無縁な世界で、いつも無邪気に幸せに暮らしてほしいと思っています。

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友達と7歳の誕生日をお祝いするレオ。おめでとう!

フィリピンから来ている大輔さん、そして大輔さんが経営する会社の役員である石井さんと一泊二日でアルメニアを南部を旅行して、一昨日エレバンに戻ってきました。日本でワインを作る予定の石井さんの希望で、ワイン産地やワイナリーを訪問しました。美しい修道院なども訪問して、とても楽しい二日間となり、「アルメニア、本当によかった!」と石井さんも言ってくれました。

ドライバーの提案で、二日目はタテヴ修道院まで足を延ばしたのですが、その道中、家財道具を積んだカラバフからの避難民の車をたくさん見ました。彼らはカラバフからアルメニア南部の街ゴリスに入り、そこからエレバンなどに向かっているのです。その避難民の数は10万人を超えたという情報があり、これはカラバフの人口の8割以上。あと数日でカラバフからアルメニア系住民はいなくなるでしょう…

首都ステパナケルトからアルメニア国境まで、通常であれば車で2〜3時間ほどですが、今は険しい九十九折の山道に延々と続く長い渋滞ができ、さらにアゼルバイジャンが設置した検問所で一台一台チェックされるため、なんと一日以上もかかるそうです。幼い子供や老人もいるというのに…その過酷な道のりを想像するだけで心が痛みます。

また、やっとの思いでアルメニア本土に辿り着いてからも、住居や仕事、また子供の教育など、今後の生活への不安を誰もが抱えています。アルメニア政府は、避難民をすべて受け入れ、その保護や支援に尽力することを表明していますが、運べるだけの家財道具を積んで移動する避難民たちを実際に見た時に、彼らの置かれた厳しい状況に胸が締め付けられる思いがしました。

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家財道具を車に積んで移動するカラバフの避難民

とにかく、ここ数日間はアルメニアとカラバフの情勢が目まぐるしく変わり、理性や感情がほとんど追いつけない状態で、今まさに歴史の大きな転換点にいることを痛感します。そのほとんどはアルメニアにとって悲しい出来事でしたが、主なものを以下にまとめます。

9月27日、ナゴルノ=カラバフ共和国の元国務大臣で、事業家また慈善活動家として知られるルーベン・ヴァルダニヤン氏が、アルメニア本土に出国中にアゼルバイジャンに逮捕されました。テロ支援や不法逃亡などの容疑で拘束されているそうです。同氏は、2022年に同共和国に移住しました。

9月28日、ナゴルノ=カラバフ共和国のサンベル・シャフラマニャン大統領は、全ての行政機関や団体を来年1月1日を以って解体する大統領令に署名しました。これは、同共和国の存在が事実上消滅することを意味します。

9月28日、アルメニア議会の常任委員会が、国際刑事裁判所(ICC)ローマ規定の批准を全会一致で採択しました。今後、議会で批准の是非が検討されます。しかし、ICCが今年3月にプーチン大統領に逮捕状を発効したため、ロシアはこのアルメニアの動きを強く牽制しています。

9月29日、カラバフ共和国とアゼルバイジャンの代表団が、アゼルバイジャン中部のエブラフで、カラバフのアゼルバイジャンへの再編入などに関する3回目の会談を行いました。

9月29日、ナゴルノ=カラバフ国防軍の元第一副司令官ダビット・マヌキャン少将がアゼルバイジャンに逮捕されました。テロ行為や武器密輸、不法逃亡などの容疑で拘束されているそうです。

先週のアゼルバイジャンの軍事行動以降、あまりに情勢の変化が激しいため、今後のことを予想するのは難しいです。しかし、アルメニア系住民がいなくなり、政府組織も解体することから、カラバフがその歴史に終止符を打つことは確実です。アルメニア含め国際的に未承認とはいえ、実質一つの国家が消滅するのです…

これは30年に及んだカラバフ紛争が終結することを意味します。しかし、まさかこんな急速な展開で終わりを迎えるとは予想だにしませんでした。もちろん遺恨を残さずに解決できる問題ではなく、アルメニアが大きな譲歩や妥協を迫られることは覚悟していましたが、今の混迷した状況を見ると、さすがに喜ぶことなどできません…

アルメニアとアゼルバイジャンが争い続けたカラバフ共和国が消滅…これで、平和条約を締結する上で最大の障害が解消されたかもしれませんが、憎悪の連鎖は断たれたどころか、さらに悪化した可能性もあるので、交渉が前向きに継続されるかは微妙です。それに、まずは故郷を失った避難民の救済が喫緊の課題でしょう。私もできるだけ支援をするつもりです。

とにかく状況は流動的で予断を許しません。しかし、アルメニアの歴史、そして未来を大きく変えるであろう今の情勢を、希望を捨てず、なるべく冷静に見守って行きたいと思います。

カラバフとアゼルバイジャンの代表団が会談  

今朝、テレビ朝日の「グッド!モーニング」という番組で、今回のカラバフでの出来事が取り上げられ、私のインタビューも放送されました。昨日、急遽ネット取材を受け、現地に住む日本人として質問に答えました。知人が動画を送ってくれたので、私も見ました。

番組は、カラバフの問題そのものに焦点を当てているというより、それを通してロシアの影響力低下などを伝える方向だった気がします。なので、私の発言内容も、番組の方向性に沿った形で切り取られて編集されていました。できれば、もっと今ここで起こっていること自体を掘り下げて伝えてほしかったですね。

そのインタビューでも話しましたが、昨日9月21日はアルメニアの独立記念日でした。しかし、その直前にアゼルバイジャンによるカラバフ領域への攻撃があったため、全くお祝いムードはありませんでした。それどころか、多くのアルメニア人が暗く悲しい気持ちで過ごしていたはずです。

明後日に予定されていたヒップホップ歌手のスヌープ・ドッグの大規模なコンサートも延期されたそうです。この状況でコンサートを行うなんてできるわけないので、仕方のない判断でしょう。

前回の記事に追記で書いたように、19日に始まったアゼルバイジャンが「対テロ軍事作戦」と呼ぶ攻撃は、20日にロシアの平和維持軍の仲介でカラバフ側と停戦合意に達したことで収束しました。アゼルバイジャンが要求していた軍の武装解除をカラバフ側が受け入れたからです。停戦合意が発表される少し前に、カラバフの大統領が「厳しい決断を迫られている」という声明を出したので、この結末の予兆はありました。

これは事実上のカラバフ側の全面降伏で、アゼルバイジャンへの再統合について交渉を行うことも受け入れました。約30年に及ぶアルメニア系住民による自治、またアルメニア含め国際社会からは未承認ですが、カラバフ国家の独立が終わることを意味します。

その双方の代表団による初会談は、奇しくもアルメニアの独立記念日であった昨日にアゼルバイジャン中部のエブラフで開かれました。ロシア平和維持軍の仲介の下、再統合に関する様々な課題について話し合われ、今後も交渉を続けることで合意したそうです。

交渉後にアゼルバイジャンの代表団は、「カラバフとの直接交渉が実現したことで、アルメニアと長年続いた対立が終わる可能性があり、平和条約締結に大きく近づいた」と述べました。ロシアの報道官も、「平和条約締結に必要な前提条件がすべて揃った」と述べました。

しかし、アルメニア人にとっては屈辱的なことで、内閣府や国会議事堂の前で抗議デモが行われています。参加者らは、現政府に大きな責任があるとして、パシニャン首相の辞任を求めています。ただ、基本的にエレバンは平穏で、多くの市民は普段どおりの生活を送っています。息子たちも学校に、妻も大学院に通っています。

政府に抗議している市民らの気持ちは理解できます。同胞民族が攻撃され、民間人を含む多くの死傷者が出ました。さらに、カラバフ国家が消滅しようとしているのですから、その怒りと悲しみは耐え切れないものでしょう。まして、虐殺など苦難の歴史があるので、今の状況に民族アイデンティティを深く傷つけられたと感じるのも無理ありません。

もちろんアゼルバイジャンの武力行使は非難されるべきものです。しかし、当ブログで何度も言及しているように、30年もの間、この領土問題を交渉によって解決できなかった責任はアルメニア側にもあります。譲歩や妥協をせずに根本的な解決を先延ばしたことで、問題をより複雑化させ、過酷な試練や悲劇を招いてしまったように思います。

昨日の独立記念日にパシニャン首相は演説で、「平和を休戦や停戦と混同してはならない。平和とは、二度と争いが起こらない環境であり、それを達成する道のりは容易ではなく、未来のために多くの困難を乗り越えなければならない」と述べました。

確かに、第一次カラバフ戦争後の”平和”は砂上の楼閣だったのではないでしょうか…そんな見せかけの平和は、常に多くの犠牲を必要とし、いつ破綻するか分からない脆いものです。それが3年前に現実のものとなりました。その厳しい現実を受け止め、真の平和を確立できるよう、隣国との対立を一刻も早く解決すべきだと思います。

とはいえ、この急激な状況の変化は予断を許しません。カラバフがアゼルバイジャンに再統合された場合、そこに住むアルメニア系住民の人権と安全が守られるのかは疑問です。たとえアゼルバイジャン側がそれを保証する用意があったとしても、これまでの根深い対立の歴史から、アゼルバイジャン統治の下で暮らすことを望まない市民は多いでしょう。

そのため、カラバフからアルメニア本土に多くの市民が移住してくる可能性があります。アルメニア政府は、「彼らが自分たちの故郷カラバフで安心して暮らせるよう、あらゆる努力を講じる」と述べていますが、移住者のために、すでに4万人以上の住居の提供準備があるとも述べています。

アルメニアに住む私にとって、今後どのように事態が展開していくかはとても重要なことです。しかし、何があろうと、きっといつか平和が訪れると信じています。愛するアルメニアの行末を、希望を捨てずに見守りたいと思っています。

そして、これからも多角的に情報を調べて、なるべく冷静に状況を見るよう努めながら、アルメニアの情勢を当ブログで伝えていくつもりです。

アゼルバイジャンがカラバフを攻撃 

今日は、日曜のワイナリー訪問のことをご紹介しようと思っていましたが、日本でも報道されていたように、カラバフが大変な状況に陥っているので、急遽それについて書きたいと思います。

昨日午後、アゼルバイジャン軍が首都ステパナケルトを含むカラバフ領域に砲撃を行っているという速報がありました。そして、境界線でも攻撃が行われているという情報も飛び込んできました。エッ!まさか?!と一瞬信じられませんでしたが、アゼルバイジャン政府が正式に「対テロ軍事作戦を開始した」と発表したことを知り、報道が事実であると分かりました。

3年前の同じく9月に戦争が始まった時は、いつものように数日で終わるだろうと思いました。しかし、その後にステパナケルトが砲撃されたというニュースを見た時に、「もしかすると本格的な戦争に発展するのでは…」と大きな不安に襲われました。昨日はそれと同じ不安と戦争のトラウマが蘇り、一気に暗澹たる気持ちになりました。

アゼルバイジャンは、今回の攻撃を「局地的な対テロ作戦」と呼んでいます。カラバフ領内のアルメニア軍の撤退や武装解除が目的だからだそうで、彼らの主張によると、アルメニア軍組織がカラバフに駐留して、銃撃や地雷埋設などの敵対行為を行っており、最近その地雷の爆発によってアゼルバイジャン人が死亡する事件が続発したとのこと。アリエフ大統領は、カラバフのアルメニア軍の武器引き渡しが作戦停止の条件だと述べています。

アルメニア政府は、自国軍がカラバフには駐留しておらず、事実無根だと否定しています。そして、「これはカラバフへの侵略攻撃であり、残虐な民族浄化だ」と激しく非難しています。カラバフからの情報によると、アゼルバイジャンの攻撃により、これまで民間人7人を含む32名が死亡し、200人以上が負傷したとのこと…また多くの血が流されている状況に胸が痛みます。

国際社会もこの深刻な事態に反応しており、各国はアゼルバイジャンに対し、即刻攻撃を停止するよう求めています。また、国連安全保障理事会は明日ナゴルノ・カラバフ問題を議論する会合を召集する予定だそうです。ただ、これらの要求や決議が事態の収束に繋がるかは疑問です。

係争地に平和維持軍を駐留させているロシアは、紛争当事者の双方と緊密に連絡を取り合い、事態の収束のためにあらゆる手段を講じていると述べました。そして、3年前に署名された停戦合意を履行できるよう、問題解決のプロセスを交渉のテーブルに戻すよう尽力していると述べました。

しかし、ロシアとその平和維持軍が、アゼルバイジャンの軍事行動を抑制しないことに一部のアルメニア市民は激しく怒っており、昨日はエレバンのロシア大使館前で抗議デモがありました。また、アルメニア政府が今回の事態に軍事介入しないと表明したことに反対する市民らが、内閣府建物の前で激しい抗議活動を行い、逮捕者や負傷者が出ました。政府はクーデターの危険があると警鐘を鳴らしています。

同胞民族の危機を見過ごせないという彼らの気持ちは分かりますが、国際社会も、またアルメニア政府も公式にアゼルバイジャン領だと認めるカラバフに軍を派遣すれば、それはアゼルバイジャンへの攻撃と見做され、再び二国間の大戦争に発展するのは確実で、トルコも同盟国アゼルバイジャンを支援するために参戦する可能性があります。そんなことになれば、いかに悲惨な事態を招くかは想像に難くありません。

ここ最近のニュースから不穏な空気や緊張の高まりがあったことは感じていましたが、あまりに突発的な出来事で、情報が錯綜しており、私自身も状況をどれだけ正確に把握しているか自信がありません。しかし、一方的な情報を鵜呑みにせず、なるべく感情を抑えて、冷静に事態を把握するよう努めています。とはいえ、平和への希望を打ち砕かれる現実を前にして、不安と悲しみで押し潰されそうになる自分がいます…

奇しくも明日9月21日は、アルメニアの独立記念日です。旧ソ連から独立して今年で32周年。アルメニアは1990年の8月23日に独立宣言を採択したのですが、先月パシニャン首相がそれを記念して発表したスピーチに、「平和が訪れない限り、アルメニアは旧ソ連の亡霊から逃れることはできない」とありました。

元はと言えば、カラバフ問題はスターリンの民族分断政策に起因します。その旧ソ連が残した負の遺産のために、独立後も長い間アルメニアとアゼルバイジャンは対立し続け、お互い多くの犠牲を払うことになりました。そして、いまだに争いの連鎖を断ち切れず、今回のような悲劇が起こりました。

3年前と同じく、戦争がいかに悲惨なものかを痛感しています。平和がいかに尊く、そして脆いものかを痛感しています。とにかく一刻も早く事態が収束することを祈っています。

追記:今日の現地時間13時、ロシア平和維持軍の仲介により、カラバフとアゼルバイジャンは停戦合意に達しました。カラバフ側は、アゼルバイジャンが要求していた軍の武装解除を受け入れたとのことです。そして、明日21日にアゼルバイジャン中部のエブラフで、双方の代表者がカラバフの今後について会談する予定だそうです。